short | ナノ

 


指先だけで甘い熱をの続き




白い肌を桃色に色付かせて大人しく身を預けていた其奴が、突然、やっぱり駄目だと言い出した。

ほんのつい先刻までは、期待とも見て取れる程の甘い目をしていたのに。何か急にはっとした様子で撤回を口にしてきたものだから、どうして、と冷静に問う。

明日、任務なの忘れてたんです

ぼそぼそと決まりが悪そうに、言いながらオレの腕を擦り抜けてタオルに包(くる)まるフラン。部屋への入り口をオレが塞いでいる為か、居所を無くして其奴は小さくしゃがんだ。
此奴に任務が入っていたなんて初耳だったが、よくよく考えてみればそんなものは理由にならないと分かる。確かに行為を激しくしてしまったら支障は出るだろうが、最初から明日は任務だと分かっていれば此方だって気遣ってやれるくらいの対応は出来るのに。
何を今更、と見下ろせば、膝を抱える其奴が上目遣いで小さく睨んできた。

「…いつも、そんなこと言って…結局手加減してくれないじゃないですかー」

「オレは十分、手加減してやってるつもりだけど。お前が体力無さ過ぎるだけだろ?」

バスタオルに包まれて雪ん子のようになっているフランの目の高さまで合わせて屈み、覆い被さるようにして壁際に追いやる。

「任務なんて知るか。お前が勝手にしてくださいって言ったんだろ。オレは勝手にするよ」

肌を隠すように薄い布を握るフランから、無理やりバスタオルを取っ払う。何事かを喚いて抵抗するフランを抱き上げ、寝室に向かおうとした所で思い留まった。

出たばかりのバスルームを振り返り、続いて暖かな水蒸気を舞い上げている浴槽を見やる。幸いにもまだ湯船を流していなかったので、どうせなら此方の方が都合が良いように思った。
思い立ったら直ぐに気が変わり、部屋を出る予定だった方向をくるりと引き返す。用が済んでから間もないバスルームに再び逆戻りした事に気づいて、担ぎ上げたフランが疑問の声を上げた。

「…、あの…ベルセンパイ…」

髪を洗う所の椅子にフランを下ろせば、オレの行動が理解出来ていないのか何やら不安気な瞳で見上げてくる其奴。幾度となく身体を重ねても、何をされるのかと気が気でない其の様は何時もとて無垢としていて可愛らしい。残念ながら本日は特に企みがあるわけでもないので、フランが感じているのは他ならぬ杞憂だ。
短時間でしてやるんだったら後処理もここで出来て楽だろうと伝えれば、あー…うーん、とよく分からない声を漏らす其奴。逃れる方法を未だに考えているのか、将又諦めがついているのかも分からない。

自分の椅子を引き摺ってフランの背後に腰掛け、ぴったりと小さな身体を抱き寄せた。

「っや、あの… な、に…」

「なに、って… 慣らさなきゃ挿入んねーだろ」

洗面所から持ってきたローションを片手に取り、適当な量を指先に絡ませる。後ろからゆっくりとフランの太腿を撫で上げながら竿に触れれば、ぴくりと小さな肩が揺れた。
まだ固くもなっていない其れをゆるゆると上下に抜いてやり、先端を親指で執拗に攻めながら搾るように促せば、息を詰めた気配と共に身動いだ其奴がか細い声を上げて首を振った。

「…っや、ぁ」

「前は嫌なの? …あぁ、フランはこっちの方が好きだもんな」

「っあ、ちがっ…ぁ、んっ…!」

膝裏を持ち上げて、双丘の奥の蕾にローションを絡めた方の指を差し入れる。位置を探るようにして緩やかに出し入れを行い、時折指を曲げてフランの快楽を探れば奥の痼りに当たった所で中が締め上げるようにうねりを上げた。
反応した場所を集中してしつこく突(つつ)くと、中途半端な刺激に耐えかねた蕾がきゅうきゅうと収縮するものだから。挿入ていた中指を引き抜き、人差し指を添えて再び蕾を押し割ってやれば増した質量に穴が悦んでいるように感じた。

「ぃ、や…っぁ、あっ…!」

可哀想なくらいに啼いていた喘ぎ声が次第に大きくなり、後ろを弄(まさぐ)る腕を挟んだフランの太腿ががくがくと震える。其の痴態に喉を鳴らし、二本の指で中を広げるように掻き混ぜれば、絡んだローションの所為でぐちゅぐちゅと水気を含んだ音がやけに際立って聞こえ、誘うような官能的な声と相俟って更に情欲を煽った。
後ろからフランを抱き締めているので鳴いている顔が見えず物足りなさを感じるが、己の分身は馬鹿正直でフランの後ろを慣らしている間とっくに凶悪な変貌を遂げて反り勃ち上がっていた。
態とらしくフランの尻に自身を押し付ければ、既に気づいているのか恥ずかしそうに其奴は下を向く。

「…なぁ、分かんだろ?」

「っ…ぁ、ん、もぅ…っ」

「オレもそろそろ待ってらんない…っつーか早くいれてーし、一回イけよ」

「っば、か…ぁ、や、ぁあんっ…!」

天を仰いで先走りを垂らすフランを掴んで激しく上下に抜きながら、同時に後ろの蕾もぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。びくびくと痙攣したように裸体を震わせ、弾けた先端が解放されて白濁が飛び散った。
ひくつく中の余韻を二本の指で感じながら、力が抜けて肩で息をするフランを見てオレは指を引き抜いた。

ぎゅっと細い肩を抱き寄せれば少し冷えているのが分かって、興奮した事によって体温が保っていられるのも少しの間だけだと悟る。フランはまだ完全に落ち着ききってはいなかったから、仕方なく抱き上げて一緒にバスタブの中に入った。
ちゃぽん、と二度目に浸かる湯が音を立てて冷えかけていた肌を暖かく包む。抱いた侭のフランが、ほっとしたかのように息を吐いた。

「……フラン」

「……はいー」

「…なんか終わったみてーな顔してるけど、現在進行形で生殺し食らってるオレの立場わかるよな?」

「え、…っあ」

とろん、としていた翡翠の双眸が、目覚めたように瞬きをする。前戯で自分だけが達した事を思い出したようでもあった。
惚けたフランを横向きに抱いた侭、浴槽の一番端に移動する。バスタブを背にして逃げ場の無くなったフランに覆い被さり、上から抱き締めるように唇を重ねた。柔らかく膨らんだ唇の感触を堪能しながら、恐々と薄く開かれた隙間から舌をねじ込んで絡め取る。
鼻に掛かったような吐息にどうにも情欲を唆られて、矢張り故意に誘っているのではないかとすら感じる。確信犯でないのは、重々承知しているが。
呼吸が苦しげになった事が分かって唇を離してやれば、短く息を吐き出しながら何かを期待するかのように艶めいた翡翠に見つめられて、腹の奥底がずぐんと重くなった。

「…フラン、脚、オレの腰にかけて」

「…あ、の… ここで、するんですか…?」

「だって体冷えるだろ? …なに、不満でもあんの」

「ちが…、そうじゃなくて… お湯、が…」

口ごもるように声を小さくする其奴の言いたい事を察したから、細い腰を抱き寄せて其の下の丸い双丘を愛でるように撫でてやった。

「んなの、ちゃんと咥えときゃいいだろ。お前のは締まりいいから全然余裕だし」

「っな…!さ、さいてーです…っ!ぁっ…」

真っ白に濁った湯船の中で、フランの脚を左右に割って太腿を擡げる。腰を抱いてぴったりと身体を密着させれば、オレの肩を掴むフランの手が強張ったような気がした。お湯の中でふわふわと安定しない状態だが、其の分其れにかかるフランへの負担も和らぐだろう。
位置を探りながら熱く猛った自身を押し付ければ、顔を隠すように擦り寄ってきたフランが二本の脚を怖ず怖ずとオレの腰に絡めてくる。馬鹿だの変態だのとオレに悪態を零すくせに、此奴もちゃっかり欲情しているのだから質が悪い。
割れ目に沿って移動し、軽く突いた部分がひくりと疼いたのを確認して、ぐっと腰を進めた。

「ひ、あ…っ」

難なく先端が埋まった途端に上がった小さな悲鳴を無視して、重く後孔を貫く。不規則にひくつく入り口が此以上の侵入を阻むように締め上げてくるが、内壁は相対して挿入した肉棒を奥へ奥へと誘い込むように絡み付いてくる。
全てが収まった所でゆるゆると突き上げるように腰を動かし始めると、自分からしがみついてきたくせに、いやいやと頭を振って拒む素振りを見せるフランのしどけない様に己の分身が熱力を増した。

「…っ悦んでるくせに、お前っていつも最初は嫌がるよな。それとも無理やりの方が好きなのかよ」

「っぁ、ち、がっ、や、だぁ…っ!ぁ、あ…!」

ぐり、と当てた痼りを押し潰すように孔を突き上げれば、びくりと腰を震わせて零れんばかりの涙を溜める。此奴の嫌は良いと言っているようなものだと、そんな事は今更分かりきっているのに本人は気づいていないらしい。
暖かな湯船に身を預け、腰を揺らして快楽を貪る度に水面が波を立てて暴れる。煌々と照らされたバスルームの照明の下で視線が交わった瞬間、矯声を上げていたフランが一瞬我に返ったかのように顔を赤らめて俯いた。

「…恥ずかしいトコは見えてねーんだから、別に顔赤くする必要ないだろ」

「っ…そういう、問題じゃ、な…、あっ」

「…ま、オレはお前の泣きそうなツラが見えてるだけで…十分興奮する、けど」

強張る裸体を包み込んで奥深くまで抽挿を繰り返せば、ぎゅうぎゅうときつく締め上げてくる内壁に腰を持っていかれそうになり息を詰めた。劣情に惑うような淫らなフランの喘ぎ声にすら押されて、うっかり先端が弾けてしまいそうにもなる。
前戯の時点からずっと煽られているようで我慢ならず、自分自身の限界も近いと感じたから、激しく突き立てて前立腺を集中的に刺激すると快楽の許容を超えて泣き叫ぶフランがオレを呼んだ。

「っぁ、はぁ、や…ぅ、べる、せんぱ…っ」

何処か頭の片隅で、優しくしてやらなければと抑え込んでいた此方の葛藤等つゆ知らず。
頬を林檎のように染めて強請るような甘い其の声色に、オレの良心という名の理性は脆くも粉砕された。
余裕がないのは此方も同じだったから、抉るように絶頂を目指して律動を速めれば一際高く啼いて震えた其奴の中が激しく痙攣する。白濁とした入浴剤の所為で吐き出した精は見えなかったが、果てたらしいフランの締め付けに誘われて、熱くせり上がってくる感覚に耐えきれずオレも達した。

「…っは、…あっつ…」

頭の中が一瞬スパークしたかのように真っ白になり、程なくして熱く火傷をしてしまいそうな心地良い倦怠感に包まれる。
思わず中に出してしまったが、固より此処で処理を済ませるつもりだったので問題ないだろうと腕の中の細い身体を抱き締めた。
絶え間なく上がっていた喘ぎ声を途切らせてすっかり大人しくなった其奴を不思議に思い、唇を重ねようと少し身体を離した瞬間。

「…っう、わ…!」

顔を真っ赤に染め上げたフランが、くてんと力無くして湯船に沈む。思わず声を上げて驚き、慌ててフランを抱き上げれば、先程まで元気に喘いでいた其奴は何処へやら、うんともすんとも反応を示さない。
完全に逆上せて気を失っていると分かり、流石にこれは申し訳ないことをしたな、とオレは一人肩を竦める。仕方なしに力を無くしたフランを大事に抱き抱えて、バスルームを後にすべく湯船から立ち上がった。


**


ぐるぐると渦巻くような熱が頭の中を右往左往している。額に当てられた何かがひんやりと冷たく浸透し、其の心地良さに次第と意識が覚醒された。
そっと瞳を開けば、未だぼんやりとした思考の中で愛しい人が自分の名前を呼ぶ声がする。

「…ベル、せんぱい?」

「あ、起きた?」

ベッドに着いているのとは逆の手でそっと頬を撫でられ、先程感じたばかりのひんやりとした感触は彼のものだったのだと気づく。甘えるように冷たい指先に擦り寄れば、其れに応えるように優しく頬を包まれて唇を落とされた。
寝ぼけた様子で瞬いていると、水の入ったペットボトルを差し出されて飲むかと問われたので小さく頷いた。
背中に腕を回されて起き上がる手助けをしてくれた其の人に、其処までしてくれなくても、と言いかけてくらりと眩暈が起きる。

「…大丈夫か? まだ頭、ぼんやりしてるだろ」

「…あー、はい。だいじょーぶですー、あの、ミーは」

「逆上せて気ぃ失ってた。ったく、ビビらせんじゃねーよ」

一瞬、どうして自分は眠っていたのだろうと記憶を張り巡らせたが、ベルフェゴールの発した言葉で全てを思い出した。
と、同時に恥ずかしい光景までフラッシュバックされて、思わず頬が熱くなり俯く。

ベルフェゴールの持ったペットボトルを奪い去り、ごきゅごきゅと一気に水を飲み干して喉を潤す。身体の中の干からびた部分を息を吹き返していくような感覚にほっとした後で、じとりとベルフェゴールを見上げた。

「…やっぱり」

「あ?」

「…やっぱり、手加減なんかしてくれなかったじゃないですかー…っお陰で逆上せて溺死しかけるし…」

「溺死って…大袈裟なんだよバーカ。つうか手加減してやるなんて一言も言ってねーし。煽ったお前が悪い。王子悪くない」

悪びれもせずに紡がれた台詞に呆れを取り、即座に悪態を吐こうとした。が、確かに煽るような言動をしていたかも分からないくらいに行為に没頭していたのは事実であるし、逆上せた自分を今までずっと介抱してくれていた其の人ばかりを責めるのは少々気が引けて。

何も言えず黙り込むと、気まずそうに息をついたベルフェゴールが頭をぽんぽんと撫でてくる。まぁ、やっぱりオレもちょっとは悪かった、と静かに詫びてくる其の人に胸がとくんと高鳴って、首を横に振った。

「あー…いえ、その… ミーも夢中になりすぎちゃった、し…介抱してくれてありが、」

「夢中?え、嘘、なにそれオレに?うわ…そんなに良かったんだ…超やらし…」

「センパイなんかもう知りませんー、一生湯船の底に沈んでれば良いと思いますー」

直ぐさま茶化すような発言を口にしてくるベルフェゴールに、感じた胸の高鳴りが急降下する。ほんの一瞬でも本音を零した自分を後悔。矢張り此の人相手に素直になるべきじゃなかった。
機嫌を損ねた様子でシーツを頭から被り、ベルフェゴールに背を向ける。てっきりしつこく問い質してくると思っていたのに、なんで拗ねんの、と柔らかい口調で後ろから抱き締められた。

無言を貫いていると、もう水は飲まなくて平気なのかと問われて、其れに関しては無視もできずにもぞもぞとシーツから顔を出す。大丈夫です、とだけ返事をすれば、そっか、と小さく微笑まれた。

そんなベルフェゴールの様子を見て、彼のからかいを真に受けて不貞てしまった自分がほんの少しだけ恥ずかしくなる。
少しばかり逡巡し、ベッドに腰掛ける其の人の名を呼んで控え目にシーツを持ち上げた。直ぐに此方の意図を察して、何も言わずに入ってきたベルフェゴールに抱き寄せられて其の背中に腕を回す。
ぎゅ、と力を込めれば、寄せた唇が耳元を掠めた。

「…今度から、風呂でするのは禁止な」

「…なん、でー」

「フランの体力がないのが一つと、オレが手加減してやれないのが一つ」

「……や、ですー、次は、逆上せないようにしますから…」

「次は、って…っお前、もう寝ろ、バカ」

何故か、自分の言葉にほんのり顔を赤くしたベルフェゴールが此方の頭を抱え込むようにして抱き締めてくる。意味が分からないです、とぼやけば、分からなくていいと制されてしまった。
次回もバスルームで、と言外に誘ってしまった事にも気づかない侭、変なセンパイですね、と微睡みながら暖かな腕の中で呟く。
穏やかな空気と浮き立つような心地良さに胸が満たされるのを感じながら、ぽふりと枕に顔を埋めた。







20131110


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