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ジリジリと火虫に精神を喰われていくのがよく分かる
『はぁ…っ』
地面に手をつき、必死にソレに耐える
これ以上持ってかれると、本当に意識を保っていられなくなる…っ
どうやら緒里と有夏月も喰われているらしく、苦しげな表情で耐えている
無関係な通行人も何人か倒れており、このままだとこの混乱が益々大きくなるだけで…千莉を困らせることになる
『チッ…ふざけんじゃねェよ…』
汚い言葉が口から飛び出してくるが、もう取りつくろう余裕はない
これは間違いなく、千莉の虫をアイツが操っている
自身が生み出した虫だ…多少の手を加えることぐらい朝飯前だろう
今ここにはないが金銀の蝶にもきっと赤い火虫がへばりついているはず
これは牽制のつもりか…
「だ、大助…」
緒里の声で大助がこの場にやってきたことが分かり、顔をあげる
彼の虫であろう青いアリにも赤い火が灯っていて苦しげに足を蠢かしているのが見えた
「大クン?た、大変なの!藍羽ちゃんと緒里くんと有夏月くんが急に……!」
「一体何が…」
「わ、分からない…僕たちは何もしてないよ…玖々川さんが急に苦しみ出して…それで……」
顔を歪めている有夏月の首筋にも、火虫に蝕まれつつある橙色のカゲロウの姿があり、夢を喰われていることが容易に窺える
助けにきたその大助もまたガクン、と膝を折った
その足元に転がっている、どこからともなく現れた緑色のかっこう虫を見て、藍羽は目を見開く
――まさか、彼が…あの"かっこう"…!?
緑色のかっこう虫の虫憑きで、特環の悪魔とも呼ばれる…恐ろしく強い1号指定の"かっこう"が、この何の特徴もない薬屋大助だと言うの?
土師さんに見せてもらった資料の中に度々名前だけ出ていた、主戦力が何故ここにいるのだろうか…
いや、今はそんなことはどうだっていい
今は…この状況を何とかしなければいけないのだ
「大クン…!みんな…!」
パニック状態に陥りかけている千莉の声を聞いて集中する
――私はこの程度のことで負けるほど弱くないわよ…!
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