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大助と一緒に純も立ち止まったようで、今は4人だけで繁華街の中を歩いて行く
『―――!』
だがふいに、藍羽は足を止めた
急に立ち止まったことで千莉は転びそうになり、有夏月と緒里はぶつかりそうになる
「おい、急に立ち止まるんじゃねーよ!」
怒って文句を言う緒里の声も、今の藍羽の耳には届かない
『……みつけた…』
俯いて小さく呟かれた言葉は千莉たちには聞こえなかったようだ
今、藍羽が見ているのは目の前にある地面ではなく、ぼろぼろの黒い法衣を身にまとった人物だ
フードに隠れて顔は見えないが、首から壊れた十字架の銀色のネックレスをぶら下げている、ひどく腰の曲がった老人で……それは確かに藍羽の"前"に映し出されていた
俯いたのはきっと金色になっている目を見られたくなかったからだ
「ねぇ、どうしたの?大丈夫、玖々川さん!?」
具合が悪いのかと心配した有夏月の声がどこか遠くで聞こえる
土師さんから特徴を聞いていたし、前に1回会ったことがあるからその気配の持ち主を忘れることはできない
"コイツ"は…この老人は、千莉を虫憑きにした…"始まりの三匹"である、"浸父"だ!
見つかったことを悟ったのだろう、"浸父"は"こちら"を向いて…ニヤリ、と笑った
―――怒りで、一瞬集中が途絶えた
『…っあ…!!』
その一瞬で視界は元の繁華街へと戻り、急激な脱力感を覚えその場にうずくまった
「藍羽ちゃん!?どうしたの!?」
千莉の戸惑った声に答えられる余裕はない
「おい、どうし……っ」
「緒里くん、これって…!!」
2人の視線の先には、藍羽の肩に乗っている火の虫があった
もちろん一般で火を纏う虫がいるわけなく、これは千莉の"虫"であることは分かる
今まで自分たち2人の夢しか喰らわなかったのに、どうして"一般人"の藍羽にもついているのか…まるで分からない
その混乱している間に、火虫の食指は彼らの虫にものばされていた
「…っく」
「…っ」
「緒里くん?有夏月くん!?」
千莉が泣きそうな声で2人の名前を呼んだ
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