15 香月朔夜 side
俺にとってアノ日のことは忘れたくても忘れられないことだった。
まだあれから3年も経っていない。
その傷を抉られるのは、本当に止めてほしかった。
「ほら、何ぼーっとしてんだよ朔夜!」
思わず本気でやっちまったから絶対痛かったはずなのに、そんなそぶりは全く見せずバカみたいに笑う椎名。
絶対気になるはずなのに、黙っていてくれることに対しては本当に感謝してもしたりない。
……その後にやった、耳元で喋ったのに対しては思いっきり腹に一発きめてやったから何も言わない。
マジでやったから涙目になっていたが、そんなのは自業自得だから何とも思わない。
「寄るな触るな近寄るな変態」
「ひでーっ!」
別にこの学校に1年いれば同性愛に対する偏見なんてものはなくなるが、あくまでそれは自分に害が及ばない範囲での話だ。
こんなナリをしてるから大丈夫かと思っていたが、このチャラ男にそれは通じないらしい。
「ってゆーかさー朔夜ー」
「女子高生みたいなしゃべり方すんな。キモイっつーの」
「ひどいっ!でも椎名めげないもん!」
「……」
「あ、うそうそ。マジで喋るんでその拳おろしてもらってもいいでしょうか?」
引き攣った顔で降参の意を示した椎名に免じて握りしめた拳を下した。
「サンキュー。でさ、俺ら例の立花クン置いてきちゃったけどよかったわけ?」
「かなり今さらな話題だな、それ」
今の今まで忘れてたぞ、立花の存在。
普通に食堂に置き去りにはしてやったが別に大丈夫だろ、あんなに信者がいるんだから。
あんなに生徒会のメンバーに囲まれている立花に直接攻撃したら退学はもちろんのこと、実家も最悪潰されるかもしれないからなー下手に手は出してこないだろう。
生徒会の奴らは顔もよければ家柄もよく、メンバー全員を敵にまわしたらどの職業についても壮大な妨害はほぼ間違いない。
顔よし家よし頭よし。ここに性格よしが入ればパーフェクトだったのに、立花が来てから奴らは恋バカになっているから無理だな。
「だーいじょうぶだって。俺がちゃんと朔夜ちゃんを守ってあげるからさ!」
「…俺は別に守られなきゃいかん程弱いつもりはねぇが」
「でもこの学校で素は出したくないでしょ?俺に任せろって」
確かにここで喧嘩なんてしたら一発で終わる。何もかも一瞬で塵になる。
だが……椎名に助けてもらうなんて俺のプライドが傷つくのも確かだ。
「……つーか距離近ェ」
「ん?そう??」
いつの間にか本当にすぐ近くにまで寄ってきていた椎名から離れようとするも同じ分だけ近づいてくる。
まるで恋人同士(男と男なんて目に毒のような気もするが)のような距離感に俺はげんなりとため息をつく。
スキンシップが好きなのか椎名は気を抜くとこうやって驚くほど近くにいることがある。
それは心の距離だったり、物理的な距離だったり様々なのだが…今は物理的に近すぎる
ってかどんどん近付いてきてないか!?
。
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