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<アオイ、お兄ちゃんの手を見てみて>
僅かに楽しげな空気をだしながら言われた言葉に、片目しかない視界で言われた通りに海人の手を見つめる
火のついていない煙草を持つ手
だが、気のせいだろうか……小さく、僅かにだが震えているような気がするのは
『……?』
<ふふ、お兄ちゃんだって心配してたんだよ?アオイが気を失った時>
信じられない、というのが本音だが……亜紀人が言うならそうなのかも、しれない
あのドアの開け方も……心配、してたからといえばまぁ納得できないこともない
<こういう時はね、たった一言いえばいいんだよ>
一言…?
意味が分からなかったが、亜紀人にその"一言"を教えてもらってやっと意味を理解する
『……海人、』
「あァ?」
『…心配、かけて…ごめん…?』
普段なら一人捕まえ損なっただけで鞭が飛んできたものだが、入院するぐらいの怪我を負ったのは久しぶりだ
怪我をしてしまってごめん、ではなくて…心配かけてごめん
「……亜紀人の入れ知恵か…」
小さく呟かれた言葉に、真実だからとコクリと頷けば重いため息をつかれた
ふいに手をのばされ、ぶたれるのかと思い反射的に瞳を閉じたが―――その手は、ただ頭の上に置かれただけだった
ただ置かれただけの手、だが確かにぬくもりのある手
「余計なこと考える暇あったら、さっさと怪我治せ。まだまだ掃除しなきゃなんねェゴミ共がいんだからな」
珍しく暴力染みた行為がないことに驚きながらも、何となく大人しくその手を受け入れる
クスクスと笑う亜紀人
<素直じゃないのはお互い様、だね>
まるで何もかも見通しているかのような亜紀人の発言は、オレには理解できないことが多いが……人を観察するのが上手い亜紀人の言うことは大抵間違ってはいない
頭の上に置かれた温もりはすぐになくなってしまったが、海人はGメンのメンバーに呼び出されるまで…ずっと、椅子に座っていた
それはまるでカゾクのようで(オレに、それは縁のないものだと思ってた)
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[mokuji]
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