A
お兄ちゃんはとても楽しそうに笑っている
そう、本来は私もそう笑わなければならないのだ
「まんまとコイツに騙されてる小僧たち見とると笑いとうてたまらんかったわ〜」
「武内空…!」
『お兄ちゃん…』
「お前、コイツの兄妹なんか!?」
「牙の王サマは物覚え悪いんちゃう?コイツは武内アオイ。正真正銘わいの妹や」
今まで他人のふりをしていたからみんな絶対に気づいてなかったと思う
だけど私は武内空と宙という双子の兄を持つ、武内アオイ
武内空の"後続品"として生み出された私にとって、頼れるのはお兄ちゃんしかいないんだよ…
「こんなおもろい喜劇、もうちょい見たかったんやけどなー。あんまほったらかしにしとるとアオイがすねるからな」
「ふざけんじゃねぇよ!」
『咢…』
「テメェは俺らの…小鳥丸の"仲間"なんじゃねぇんかよ!!」
『そ、れは…』
「んな奴んとこ行かずに俺ら…俺の傍にいればいいだろっ!!」
俺ら、を言いなおして俺の、と言ってくれた咢
ごめんね、すっごく嬉しいんだよ?
だけど、それをここで表すわけには絶対にいけないんだ
だから……私は最後の仮面をかぶろう
『――ばっかみたい』
「な…!」
『最後の最後まで騙されてくれてありがとV男ってすぐ女の涙に騙されるからね〜やりがいがあるってものよ』
ちょうど雨も降ってきてくれた
よかった。これで涙を隠せる
私はみんなのために、自分のために喜んでヒールになろう
『これ以上ここにいても何にも役に立たないからさ。もうそろそろ帰らせてもらうわねー。今まで騙されてくれてありがと、小鳥丸のみんな』
「テメェ…!ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」
『ふざける?私は何もふざけてなんかないってー咢。私は最初っからあんたたちのこと友達だなんて欠片も思ってなかったっての。うざったい友情ゴッコは勘弁してよね』
咢の目を見ながらはっきりと言い放つ
これぐらいしないと、咢は諦めたりしないし……私も未練を残してしまう
だから酷い言葉を言って…クルリとみんなに背を向けた
『もう行こう?お兄ちゃん。服濡れちゃったし』
「せやなー。そろそろ帰るか。宙の奴も首長ぉして待っとるやろうし」
『――それじゃ、さようなら』
最後に一回だけ振り向いて…みんなの顔を見た
みんな信じられないといった表情で罪悪感で胸が痛む
最後に見たのは咢
強い…強い目で私を見る咢に――目頭が熱くなる
ごめんね、咢
私、咢のこと…誰よりも好きだよ
「アオイ!」
『………』
私を呼ぶ声に振り返ることなく、私はみんなに背をむけて歩き出した
―――頬を伝うものは、きっと雨にきまっている
雨と涙(この気持ちは、奥底にしまいこもう)
(次会うときは、"敵"なのだから)
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[mokuji]
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