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「さぁ…もっと殺し合って!もっと私を楽しませて!もっと…もっともっともっと!その絶望に満ちた顔をもっと見せてよ黒崎一護!!」
狂気に満ちた声で戦いを煽る少女
楽しそうに、殺し合いを強要する
まるでショーか何かのように…無邪気に、濁った瞳を輝かせていた
その言葉に従うように、亜希は刀を振るう
「…ッ、おい佐藤!!いい加減目ェ覚ませよ…っ!!」
何を言ってもどれだけ言葉を重ねても、人形のような瞳は何も変化はない
凍ってしまったかのように、感情なんてなくなったかのように――何も、映さない
「佐藤……っ、亜希!!」
今まで一度も呼んだことのない、名前を無意識のうちに口に出していた
こんな些細なことで、彼女の意識が戻るだなんて思えないというのに……何故か、一護はそれを口にしていた
「何度呼ぼうが無駄だよ、お兄ちゃん!もうお姉ちゃんの心は完全に壊したんだもん。その壊れた心も既に私が支配した!お兄ちゃんの言葉は絶対に届かない!」
無駄だとばかりにミヨは嘲うが、それでも諦めることなく一護は彼女の名前を呼び続けた
例え心が壊れてしまったのだとしても……もう一度、再び直せばいい
壊すのが人間なら、直せるのもまた人間なのだ
今度は、ここまで追い詰めてしまう前に必ず――必ず助けたい…いや、助けてみせる
佐藤亜希という人間は、決して目立つことはないけど心優しい、一緒にいるだけで不思議と落ち着くことができる少女なのだ
こんな事……人を傷つけるような真似なんて、できるわけがないのだ
「…っ俺が…俺が、助けてやる…今度こそ、必ず……!――亜希!!」
ここまで追い詰めてしまう前に、今度は必ず気づいて助けてやるから
だから、だからその瞳に、俺をちゃんと映してくれ
ガラス玉にではなく、佐藤亜希という人間の瞳に…
「ははっ!無駄、全部無駄だよお兄ちゃん!幾千幾億の言葉を募ろうと、もうお姉ちゃんの心は――」
得意げに語っていたミヨの言葉が、途中で途切れた
『―――、』
鍔迫り合いをしていた一護は、その変化がよく分かった
カタカタと刀は耳障りな金属音を断続的に響かせており、それは少女の体が小刻みに震えているからに他ならなかった
『――――き、くん…』
人形のように何も感情がなかったのが嘘のように、その瞳にはハッキリと感情が映し出されていた
『……たすけて……っ』
瞳を多大な恐怖で揺らしながら、確かに少女は少年に助けを求めた
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