悲しき詩 | ナノ




08:



『娘……、私が…?』


「ふふ、私がそう勝手に思ってるだけだけどね」


どうぞ、と言葉と共に出された朝食はこの沢田家でお世話になってた間、毎日のように出された日本食

教団でジェリーが作っていたのとはまた違う味わいがあり、とても美味しい


『……私は、本当のお母さんいなかったから…よく、分からないです』


絵本の中の存在だった

綺麗なお姫様と同じぐらい現実味のない、夢のような存在

そんな"あり得ない空想上の人"に娘みたいだと言われても…首を傾げるしかない


「すごくね、大切な存在だよってこと、かな?」


『赤の他人なのに?』


首を傾げる愛結に、面倒くさそうな素振りは一切見せない奈々ママ


「大切だと思う気持ちに血の繋がりは必要ないわ。イーピンちゃんやビアンキも、私にとっては大事な"家族"よ。もちろん、愛結ちゃんも」


ほんわかと笑みを浮かべる奈々ママの言葉は、正直あまり理解はできない

だがそれは、教団を"ホーム"と呼ぶ気持ちに近いのかもしれない

帰ってくる場所――待っている人がいる場所、それが"家族"…だろうか?


『……帰ってきてもいい場所…?』


少し前までは、教団に帰還していたのは"義務"だった

戻っても誰も歓迎はしないが…任務のために帰還していた


「もちろん!日本にいる間はここが家だと思ってくれて大丈夫よ?といっても、こうやってご飯作ることとかしかできないけど…」


違う、ご飯を作って待つことが"できる"のだ

食堂を任されていたジェリーのように"仕事"ではなく、当たり前のように食事を作ることができる、のだ

帰らなくてはならない"場所(教団)"ではなく、帰ってきてもいい"場所(家)"


『……うん、』


言葉につまって、何も言えなかった

悲しくもないのに涙が溢れそうになり、必死でこらえる

この時食べた朝食の味は、きっと忘れることはないだろう


『…、ありがとう…奈々ママ…』


この人たちの笑顔を守るためなら、どんな戦いにだって耐えてみせる―――戦うことでしか守ることができない私の、新たな存在意義が生まれた瞬間だった






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