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『娘……、私が…?』
「ふふ、私がそう勝手に思ってるだけだけどね」
どうぞ、と言葉と共に出された朝食はこの沢田家でお世話になってた間、毎日のように出された日本食
教団でジェリーが作っていたのとはまた違う味わいがあり、とても美味しい
『……私は、本当のお母さんいなかったから…よく、分からないです』
絵本の中の存在だった
綺麗なお姫様と同じぐらい現実味のない、夢のような存在
そんな"あり得ない空想上の人"に娘みたいだと言われても…首を傾げるしかない
「すごくね、大切な存在だよってこと、かな?」
『赤の他人なのに?』
首を傾げる愛結に、面倒くさそうな素振りは一切見せない奈々ママ
「大切だと思う気持ちに血の繋がりは必要ないわ。イーピンちゃんやビアンキも、私にとっては大事な"家族"よ。もちろん、愛結ちゃんも」
ほんわかと笑みを浮かべる奈々ママの言葉は、正直あまり理解はできない
だがそれは、教団を"ホーム"と呼ぶ気持ちに近いのかもしれない
帰ってくる場所――待っている人がいる場所、それが"家族"…だろうか?
『……帰ってきてもいい場所…?』
少し前までは、教団に帰還していたのは"義務"だった
戻っても誰も歓迎はしないが…任務のために帰還していた
「もちろん!日本にいる間はここが家だと思ってくれて大丈夫よ?といっても、こうやってご飯作ることとかしかできないけど…」
違う、ご飯を作って待つことが"できる"のだ
食堂を任されていたジェリーのように"仕事"ではなく、当たり前のように食事を作ることができる、のだ
帰らなくてはならない"場所(教団)"ではなく、帰ってきてもいい"場所(家)"
『……うん、』
言葉につまって、何も言えなかった
悲しくもないのに涙が溢れそうになり、必死でこらえる
この時食べた朝食の味は、きっと忘れることはないだろう
『…、ありがとう…奈々ママ…』
この人たちの笑顔を守るためなら、どんな戦いにだって耐えてみせる―――戦うことでしか守ることができない私の、新たな存在意義が生まれた瞬間だった
。
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