07:見返りのないそれに触れる
朝、太陽の香りが僅かに残る布団の中で目が覚めた
たったそれだけのことでも、愛結にとっては素晴らしい1日の始まりを感じさせられる
任務に行けば野宿や治安があまり良くない地域でホテルに泊まったりすることもあったため、そのありがたさが身に染みる
「おはよう、愛結ちゃん」
『おはようございます、奈々ママ』
すぐ朝食の準備をするわ、と柔らかい笑みを浮かべた奈々ママに、愛結もまた笑みを浮かべる
まだツナたちは寝ているようで、リビングには自分たち2人しかいない
「帰ってきたばかりなのだから、もっとゆっくり寝てていいのよ?」
『いえ、これでも十分過ぎるくらいなんで。あ、お布団気持ち良かったです』
「本当?よかったわ」
何気ない会話をしながら、ぼんやりと台所に立つ奈々ママの後姿を見つめる
戦いなんて縁のない、どこにでもいるような普通の"お母さん"
自分には縁のない存在だと諦めていたけど、どこかで憧れてもいた
もう顔も覚えていないハハオヤたちは、自分のために何かをしてくれたことはなかったから…
「―――…愛結ちゃん?」
あまり思い出したくない過去のことを考えていたせいか、奈々ママが近くに立っていることに今ようやく気付いた
「大丈夫?何か難しい顔してたけど…」
『え、あ、大丈夫です…!ちょっと考え事してただけなんで、』
「そう?何か困ったことがあったら遠慮なく言ってちょうだいね?話を聞くだけでも楽になるだろうし!」
『……なんで、そこまで優しくしてくれるんですか?』
それは純粋な疑問だった
赤の他人、しかも付き合いはまだ浅い自身の子供の友人でしかない自分に、何故こうも笑えるのだろうか?
今まで出会ったことのない人種に、戸惑いを隠せない
こうやって笑いかけてくれるのも嘘なのではないか、そう疑い傷つかないように護ろうとする
「あら、そんなの簡単よ」
ニッコリと笑う姿は、やはりどこかツナに似ていた
「だって愛結ちゃんも、私にとっては大事な娘みたいなものだもの」
。
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