少年独白







空から、天女様が降ってきた。

天女様は見たこともない丈の短い着物を着ていて、俺らを見るや否や目を真ん丸にして、これからよろしく、と笑顔で言った。
上級生の先輩たちは天女様に対して凄く優しくしているけど、俺は正直天女様が苦手だ。
これはしんべヱも言ってたことだけど、天女様からは何か甘い匂いがする。
団子みたいに美味しくて良い匂いじゃなくて、吐き気がして胃がムカムカする匂い。
……新種の香だろうか?だったとしたら天女様は趣味が悪い。







天女様が降ってきて次の日の朝。

俺たちはしんべヱの寝坊のせいで、いつもより遅く食堂に向かった。
時間的にもかなりギリギリで、慌てて走って着いた食堂には、あの嫌な匂いが広がっていて。
食堂の真ん中には上級生を中心とした大きな人だかりができている。
俺はそれですぐに、あの中心にいるのは天女様だとわかった。

匂いが籠った室内だからか、おばちゃんの美味しい朝食を目の前にしても止まらない吐き気。
食欲はこれっぽっちもない。
だけど、残したりしたらおばちゃんに怒られる。
それに、長年のドケチ根性が、そんなの許さない。


(……しんべヱ、よくそんなに食えるよなあ)


この空間の中でも気にせずいつも通りの量をたいらげるしんべヱを見て、思わずため息をついてしまう。
丁度、その時だった。







「「「あ、秋椰さん!」」」





どうやら乱太郎もしんべヱも気づいていたようだ。

俺たちの声に反応してやって来たのは、この学園に住み着いて?いる暁成秋椰さん。土井先生曰く、この学園を中退したらしいけど、ずっとここにいるらしい。
学園のことに関してなら先生たちよりも博識だって聞いたことがある。
一部の先輩たちは秋椰さんのことをあまりよく思ってないみたいだけど、勉強でわかんないとこは土井先生よりもわかりやすく教えてくれるし
(これを本人に言ったら土井先生の神経性胃炎が悪化しそうだ)、頼めば剣や武器の稽古だってつけてくれるし、本当に良い人だ。

だけど秋椰さんは天女様のことは少ししか知らないみたいだった。
どうやら昨日は学園長のおつかいで、学園にはいなかったらしい。
秋椰さんもこの光景には驚いてたみたいだけど、俺が事情を話しても「ふうん」と生返事をするだけだった。
それからも一度だけ人だかりを見たきり、朝食を食べるのに専念している。
それを見て、俺も残りの朝食を無理矢理かきこんだ。

「自分の興味を持ったものにしか相手をしない」────土井先生からそう聞いたことがあるけど、これを見て納得した。


もちろん先輩たちも強くて尊敬できるけど、正直言って秋椰さんはそれ以上だと思う。







別れ際、秋椰さんの着物からは常用している薬煙草独特の匂いがした。

前に乱太郎が言ってたけど、この匂いは新野先生と、生徒では保健委員長の善法寺伊作先輩しか知らない薬なんだと。
これから天女様のせいでか全校集会があるらしいけど、秋椰さんは面倒だからと理由を付けて欠席するらしい。また、土井先生に怒られるんだろうなあ。



















でも…………うん、やっぱり俺は天女様よりも秋椰さんの方が好きだな。


















そう、秋椰さんに聞こえないように呟いたら、隣にいた二人も笑顔で頷いてくれた。









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