■ 風邪の日はお大事に

「風邪か」
「う......」

   朝、いつもに増して寝起きの悪いわたしに降谷さんがそれだけ投げかける。
   なんでばれてるの。

「起き上がれるか?」
「うん」
「昨晩のうちになんで言わなかったんだ......薬は?」
「寝る前に飲んだよ」

   答えるわたしの掠れた声に彼は目を細めてコップに水を注いでくれる。

「ほら、ナマエ」
「ん、ありがと」
「食欲は?」
「ない......」
「喉痛いだろ」
「うん」

   わたしに投げかけながらテキパキとカーテンを開け、どこからか持ってきたスポーツドリンクがサイドテーブルに置かれる。

「出かける前なのにごめんね」
「気にするな。ナマエは病人なんだから僕に甘えててくれ」

   優しい声と共にそっとわたしの大好きな手が降りてきて、額に張り付いた髪をよけてくれた。
   その手が嬉しくて目を閉じようとするとそろそろ出ないとな、とため息混じりに時計を眺める降谷さん。

「そっか、わたしは大丈夫だから行ってらっしゃい!」

   鞄を持った彼に上半身を起こしてゆるゆる手を振ったけれど、本当は風邪のせいか降谷さんがいなくなってしまうのはすごく寂しい。でもお仕事なんだから仕方ないよね。

「途中抜けられたら一度帰ってくる。ちゃんと寝ておくんだぞ」

   言い聞かせるようにそう言われて頷くと、じゃあおやすみ。頭をくしゃりと撫でられ彼が離れていく。

「気をつけてね」
「ああ......それと」
「うん?」

動きを止めたことに疑問符を浮かべると、わたしに覆いかぶさるように屈んだ彼がはだけた胸元に唇を落とす。

「な、」
「身体は冷やさないように。行ってきます」

   固まって言葉を失っている間にすたすたと彼の背中が遠ざかっていく。そのままバタンと閉まるドアを見届けて、ようやく降谷さん!?なんて間抜けな声が出た。

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