■ 雨ふり、お迎え

   今日が非番でよかった。
   昨晩から降ったり止んだりの雨雲はいまだ遠ざかる気配はなく、せっかくの非番は読書だけで終わってしまいそうだった。
   晴耕雨読。なんとも素敵な言葉だ。しばらくぶりに本から顔を上げて窓を叩く雨音に耳を傾け、随分時間が経ったことに気づく。
   そろそろスモーカーさんも帰ってくる頃だろう。
   朝ちょうど雨の止んでいた時間に仕事に向かった彼はきっと傘なんて持ってない。せっかくだし、迎えに行ってあげようか。もちろん、これくらいの雨なら気にせず濡れて帰ってくるんだろうけど。
   お風呂や海はダメなのにシャワーや雨は平気だなんてつくづく能力者ってよく分からないと思う。


   ショート丈のレインブーツを履き、大きめの傘を持って急ぎ足で彼の勤務先へ向かう――

「あれ? スモーカーさん!」

   ふと顔を上げると向こうからずぶ濡れなのも気にせず歩いて来る人。十手を背負うその人は紛れもなくスモーカーさんで、わたしは声を上げて駆け寄る。

「ナマエ。出かけるのか?」
「違うよ、迎えにきたの」
「別に良かったんだが......気が利くな」
「遅かったみたいだけどね」

   意外そうな顔のスモーカーさんにどうぞと傘を差し出すと、雨が降るのはいいがこいつがダメになるのがな......などとコートにストックされたびしょびしょの葉巻を指さしてぼやく。

「これを機に禁煙しない?」
「すると思うか?」
「いーえ」

   傘の中、肩を寄せあって二人きり。
   声がいつもより響く気がしてなんだか不思議な気持ち。
   相合傘ができるから、こんな雨の日もたまにはいいかもなって思う。


「お夕飯なにがいい?」
「ちょうどいい、食って帰るぞ」
「やった! あそこのレストラン美味しいよ」
「あァ。行くか」
「はーい!」

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