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談話スペース

「明日からフツーの授業だねえ!」
「色々ありすぎたな!」
「一生忘れられない夏休みだった…」

明日から通常通りに始まる授業を前に、林間合宿や圧縮訓練そして本日の仮免試験と怒涛に過ぎ去った日々を皆思い出していた。

「凛」
「んぐっ!!ゲホッ…ゲホッ…焦凍?」

凛は、風呂上がり喉が渇いたなと思いキッチン付近で水を飲んでいると、突如後ろから突然声がして驚き思わず吹き出しそうになった。
なんとか飲み込んで、涙目になりながらも後ろを見るとそこには轟がいた。

「悪りぃ。驚かせた。…凛の部屋…今行ってもいいか?」

以前、入寮時に遊びに行くと言ってくれたこともあり、轟は何度か凛の部屋を訪れたことがあった。
しかし、彼の表情はどことなく元気が無く、凛はいつもの遊びに来るのと同じと捉えてはいけないと感じた。

「ああ。行こう」

凛と轟は皆の団欒から、さっと抜け出し彼女の部屋へと向かった。
部屋に入ると、ローテーブルの近くに2人は並んで座った。

「「……」」

2人の間には沈黙が流れ続けた。
轟が元気がないのはやはり、仮免試験のことだろう。
いくらチャンスがあり、新たに大切なことに気づけたと言っても彼自身思うことがあるのだろう。
凛は、彼が自分から言うまで待ち続けた。

「俺…夜嵐に会ったことあったんだ。入試ん時に。そん時の俺は親父を憎むことしか頭になくて、あいつにひでえことしたのも忘れてた。あいつ、実は親父との間にもいろいろあって、だから俺らの事を嫌ってたんだ」

轟の言葉にそういうことかと凛は納得した。
確かに、体育祭以前の彼は周りなんて関係なく生きていたし、その頃に一悶着あったとしても覚えていないだろうと。
夜嵐のあの目も。

「体育祭で親父への気持ちは振り切ったつもりだったんだ。だが、夜嵐との事で、どこかでまだくすぶっていたことに気がついた。No.2ヒーローとしての息子という事実は変わらねえし、ヒーローを目指していく以上これからも背負っていかなきゃならねえ。今回、ウヤムヤにしてきた事がようやく折り合いがついた」

轟は自嘲するようにふっと小さく笑った。
やはりそんな彼の姿はどこか寂しげだった。

「緑谷の一喝と、凛の説教はきいたよ。だいぶ堪えた。仮免取れなくても仕方ねえよな」

凛は、そんな彼の頬に触れ、自身の方を向くように顔をあげさせた。
彼女の目はまっすぐ彼を見つめていた。

「焦凍。過ちは取り戻せない。だが、気づけたのなら挽回することはできる。それに、今回気づけたことは確実に焦凍にとってプラスのことなんだ。なら、全てを糧にして進んで行こう」

そして彼女は轟から手を離すと、両手を大きく広げた。

「そんな仮免取れなくて落ち込んでいる焦凍を今日はたくさん慰めるて、過ちに気づけた焦凍をたくさん褒めるぞ」

にっこり笑って、来いとでも言うように両手を広げる凛を轟は数秒見つめた後、ゆっくり彼女の方に手を伸ばした。
そして彼女の背中に手を回すと、彼女の胸に顔を埋めるように抱きついた。
轟はスリスリとまるで猫のように凛にすり寄っていて、凛はそんな彼が可愛くて小さく笑った。

「ふふっ」

サラサラと自分の指を流れていく轟の頭を凛は何度も撫で続けた。
よしよしとでも言うように轟の頭を撫で続ける彼女の目には恋人への愛情があふれていた。

以前、峰田が『おっぱいは男のロマンだ』と力説していたが、確かにその通りだと轟は思った。
先ほどまで落ち込んでいた気持ちが、凛の胸に抱きついた瞬間、嘘のように晴れてしまったからだ。あくまで、凛限定なのだが。
最初は少ししたら離れるつもりだったが.もう少しと堪能し続けてしまい、気がついたら離れがたくなっていた。

しかし、それは彼女の胸だけが要因ではない。
むしろ、こっちの方が大きい。
轟は凛の目を直接見ていないが、その愛情を手から声から体温から…彼女の全てから感じ取っていた。
彼女の全てが自身の心を潤す感覚に安心しきって、身を委ねた。

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