春―――

桜が咲き、まだ少し肌寒いこの時期。
少女は中学3年生になった。

普通ならば、あと1年でずっと探していた中学校ともお別れだと考えるものだが、彼女は実は今日こちらに引っ越してきたばかりであり、むしろ新天地での始まりに、期待に胸を膨らませていた。

東京にいた頃と同じで、少し過保護な父親の意向により、女子校に通うその少女の名前は、八木凛。

今は学校からの、帰り道。
初めての転校であったが、全く問題はなかった…。いや、1つ挙げるとすれば、ファンクラブが転校初日早々に立ち上がったことである。
凛にとっては、前の学校からの日常であり、あまり気にしなくなっていたが。

「ただいま。父さん」

「おかえり。凛ちゃん」

出迎えたのは、金髪のやせ細った男である。

「今日の街の様子はどうだった?」

「もちろん!平和の象徴として、敵退治に勤しんでさ!私が来たってね」

ムキッ!

すると、突然そのやせ細った男が、画風が変わるほどのマッチョな男になった。

そう、彼はあの有名なNo.1ヒーロー オールマイト。

そして、凛の養父であった。

「ふふ。あ、そう言えば、これ進路調査。雄英高校のヒーロー科…受けるよ」

凛は相変わらずの父の様子に小さく笑い、思い出したように紙を一枚手渡した。
それは進路調査書で、そこには雄英高校ヒーロー科とはっきり書かれていた。

そんな彼女をオールマイトは真剣な眼で真っ直ぐ見つめた。

「…いいのかい?ヒーローになるってことは、相当な覚悟が必要だよ」

「そんな事はもうとっくに覚悟はできている。その上で、私はヒーローになりたいんだ。昔の私のように苦しんだ人たちを助けたい…!」

答えた凛の表情は、覚悟を決めた人間のものだった。
そんな彼女の様子にオールマイトは、一度目を閉じ、ゆっくり再び開けた。

「凛ちゃんの覚悟は前からわかってたからね。わかったよ。もう止めるつもりはないよ。私も来年からは雄英で教師をやるからね。一緒にプラスウルトラだ!」

「まだ入試も終わってないのに、気が早いぞ。父さん」

「何言ってるんだ。凛ちゃんが受からないはずがないじゃないか!」

父の若干親バカな様子に少し気恥ずかしい思いをながらも喜びがそれを上回り、凛は、頬を緩めた。

「あと!報告したいことがあるんだ。後継者を見つけたんだ」

その言葉にすぐに凛は、ワンフォーオールの事だと察して無言でその先を促した。

「少年の名前は緑谷出久。無個性だけど、立派なヒーローの資質を持った少年だ」

短い言葉ではあったが、確かに込められた思いがあり、それを感じた凛は微笑んだ。

「父さんがそこまで断言するなら、何も言わないさ。じゃあ、しばらくは彼につきっきりになるのか?」

「ああ。彼も凛ちゃんと同い年でね。雄英高校を目指してるんだ。今からビシバシ鍛えねば。ただ、私たちの関係は彼にもまだ内緒にしてくれ。ワンフォーオールの秘密とともにまだ話すべき時ではない」

彼の言葉に、凛も同意した。
それほど、ワンフォーオールの秘密は重いものであるからだ。

緑谷出久。
いつか会える日を凛は楽しみに思った。

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