「「パイスライダー?」」

「バイスタンダーな。現場に居合わせた人って事だ。授業でやっただろ?」

不思議そうな顔をする峰田と上鳴に凛は、即座に訂正を入れた。

『皆さんには仮免を取得した者としてーーー…どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

「む…人がいる…」
「え…あぁ!?老人に子供!?危ねえ!何やってんだ!?」

障子と砂藤の言葉に、画面を見てみると確かに崩れた建物の近くにたくさんの人がいたのだ。
一般人だと思われた彼らは実は要救助者のプロ。『HELP・US・COMPANY』通称『HUC』(フック)と呼ばれる人たちだった。
まさに、このヒーロー社会に適した職業だと言えるだろう。

『皆さんにはこれから負傷者に扮したHUCの救出を行ってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします』

凛はフィールドの状況を見て、思い出していた。
近年ここまでの大規模被害になった事件…もしかして…

「神野区か?」
「八木さんもやっぱりそう思った?」

凛の言葉に反応した緑谷にコクッと頷いた。
隣にいた飯田も同じことを思っていたようだ。
この3人は、あの日の現場をよく知っている。

「あの時、僕たちは八木くんと爆豪くんを敵から遠ざけ…プロの邪魔をしない事に徹した…その中で死傷者も多くいた…」

「ーー頑張ろう」

「そうだな」

あの日、資格もなかったゆえに動くこともできず、救けられなかった命。
しかし、今は違う。
仮免を取得すれば、届かない命にも届くかもしれない。いや、届いてみせる。
改めて、気合いを入れ直した。


―――


二次試験の準備中、受験者たちには僅かな休息が与えられた。
そんな中、士傑高校がA組たちの方へやってきた。
どうやら、一次試験で士傑の生徒と爆豪の間に一悶着あったらしく、それに対する謝罪だった。

「雄英とは良い関係を築き上げていきたい。すまなかったね」

毛原の言葉に、士傑高校自体は雄英に対して友好的なことがうかがえた。
それでは、轟に対する夜嵐の態度は?と凛が考えていると、轟が自ら夜嵐の方へ近づいていった。
轟自身、凛に言われたからずっと気になっていたのだ。

「おい、坊主の奴。俺なんかしたか?」

轟の言葉に、振り向いた夜嵐の目はさらに鋭くなった。

「ほホゥ…いやァ申し訳ないっスけど…エンデヴァーの息子さん。俺はあんたらが嫌いだ。あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、あんたの目はエンデヴァーと同じっス」

立ち去っていく夜嵐の後ろ姿を見ながら轟はますます意味がわからなくなった。
なぜここに親父が出てくると、本人でさえ気づいていない苛立ちが生まれていた。

「焦凍…」

先ほどの会話を聞いていて、心配になった凛はそばに行こうとしたが、肩に衝撃が走った。ぶつかってしまったらしい。

「すまん。怪我はないか?」

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。八木凛さん」

なぜ名前をと思ったが、体育祭かとすぐ納得した。
ぶつかった相手は士傑のボディスーツの女性・現見だった。

「八木さんの個性すっっごいかっこいいよね。血とかたくさん見れそう。仲良くなりたいな」

「はぁ…どうも…」

血?と不穏な言葉に凛は戸惑いつつも、返事をした。
そんな彼女に現見は小さく笑って、手を振った。

「ふふっ。またね」

彼女の後ろ姿を見て、凛は違和感を感じた。
このヒーローが多いこの場になんだか似つかわしくないこの気配…

ジリリリリリ!!

凛の思考を打ち消すように、警音が鳴り響いた。

『敵による大規模破壊が発生!規模は〇〇市全域!建物倒壊により傷病者多数!道路の損害が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーローたちが指揮を執り行う!1人でも多くの命を救い出すこと!』

演習のシナリオが流れ、一斉にスタートした。
採用基準が発表されてない以上、訓練通りやるしかない。
凛たちA組は一部の者を除き、1番近くの倒壊ゾーンへと向かった。

緑谷が子供を見つけ、救助を行おうとしたが、対応が良くなかった。
子供から大量のダメ出しを言われる。
この試験、HUCも採点側に回るらしい。

周りの他校の2年の先輩たちは、落ち着いて処理に当たっている。
やはり、こういう救助演習は経験値の差が出やすい。

こういう現場…ここまでの大規模はなくとも凛は何度も経験していた。
オールフォーワンの所にいた時に。
決して良い思い出ではないし、むしろ忘れ去りたい。
しかし、あの時の自分がいて、今の自分がいる。
あの時のことでも、今のためになるなら糧として受け入れ、前に進むための力にする!

「一次と違い、少数精鋭で動いた方がいい。他校との連携も大事になってくる。障子、一緒に来てくれるか?」

「ああ」

凛と同じことを考えていたのか、障子は彼女の言葉にすぐ頷き、2人で倒壊ゾーンの救助に乗り出した。

「わぁぁぁん!!」

鳴き声がして、そっちの方へ向かうと小さな女の子がいた。

「もう大丈夫だ!どこか痛いところはないか??」

女の子のそばに駆け寄ると凛は、声をかけつつも急いで体の状態をチェックした。
どうやら怪我はかすり傷程度だった。

「わぁぁああん!お母さんんんんん!」

彼女の声に母親の存在がわかる。
この歳の女の子で1人でいるとは考えづらい。直前まで母親と一緒にいた可能性が高い。

「うぅ…リコ…」

建物の中から、か細い声が聞こえてきた。
障子がそれを拾い、凛を呼ぶ。

「八木!」
「ああ!君がリコちゃんか?」

女の子は泣きながらもコクッと1回頷いた。
この場は母娘ともに精神的に先に安心させねばと凛は母親にすぐ声をかけた。

「お母さん!リコちゃんは無事です!安心してください!」

「よかった…」

「お母さんのことも今救けます!もう少しです!…リコちゃん。ここでお母さんを呼び続けてくれないかな?リコちゃんの声がお母さんに元気にしてくれるんだ。一緒にお母さんを救けよう!」

5歳くらいの女の子をこの現場で母親と離すのは精神的に堪えるものがあるだろう。
幸い女の子の方はたいした怪我はない。
凛は、同時救出の道を選んだ。

「うん…!お母さん!!」

「障子。この辺り…半径10メートル以内に人はいるか?」
「いや、いない」
「じゃあ、この辺り一気に私がやる!」

凛は剣だけを出し、建物に斬撃を繰り出した。
一見大雑把なように見えるが、崩れないポイントに攻撃しており、斬られた瓦礫は一箇所に集まるように斬り倒された。
もちろん、母親に当たるなんてことは一切ない。
この行動は採点側からもかなりの高評価だった。

「リコちゃんもお母さんもよく頑張りました!すぐに安全な場所へ運びます」

凛が母親の怪我の具合を見ながら声をかけていると、他校の生徒がやってきた。

「手伝うよ!私の個性なら2人同時に運べる」
「お願いします!女の子に緊急の怪我はありません。お母さんの方は脚に怪我を負っていて、歩けそうにありません」

凛の状況報告を聞くとすぐに、その生徒は2人を運び出した。

「よし。障子次行こう」

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