爆豪は完全に囲まれ、決して逃げられる状況ではなかった。
しかも、オールフォーワンがオールマイトを食い止めている隙に逃走しようとしているため、先ほどより強引に連れて行こうという意図が攻撃から伝わってきた。

「っ!八木!!」

Mr.コンプレインが動かない凛を先に拘束してしまおうと、彼女の方に向かう光景を爆豪は目撃した。
爆豪自身も囲まれて、とてもじゃないが救けに行けない。

しかし、Mr.コンプレインの手が彼女に届くことはなかった。

「うおっ!!あっぶね…」

凛の周りには敵を近付かせんと複数の剣が舞っていたのだ。
彼女は決して1ミリたりとも伏せったまま動いていなかった。
動かない体ではなく意識だけで、剣を操っていたのだ。
しかし、この剣の包囲網は現在の彼女の容体から考えると数を相手にするのは不可能である上、いつまでもつかわからない。

「仕方ない。先に爆豪で、その後皆でやればあれくらいの包囲網どうとでもなるか」

そのことは、敵もすぐに理解し凛を一旦置いておくことに決めた。
爆豪が捕まれば全てが悪い方向へ向かう。

こんなピンチに壁越しにいる轟たちは、ただ黙って見ていることしかできなかった。
戦う事が許されてないからだ。

凛が横たえてるのは轟たちのすぐ近く。
彼女だけなら奪還は難しくない。
しかし、爆豪を置いていくなんてことは頭にはなかった。
救うなら同時でなければならない。

緑谷は必死に頭を巡らせた。
何か道はないか、わずかな可能性がないか。

「飯田くん。皆!」

戦闘する気かと飯田は緑谷を止めるが、彼は間髪入れずに否定した。

「違うんだよ。あるんだよ!決して戦闘行為にはならない!僕らもこの場から去れる!それでも、かっちゃんと八木さんを救け出せる!方法が!」

「言ってみてくれ」

現在の状況でそんな方法があるのか、普通ならゼロに等しい方法。
しかし、緑谷の顔から無謀な方法であるとは思えず、轟は先を促した。

緑谷の考えを聞いた飯田は、ストッパーとして客観的に考えた。
確かに博打ではあるが、自分たちへのリスクは少ない。そして何よりも成功すれば全てが好転すると。

「やろう」


―――


『僕のフルカウルと飯田くんのレシプロでまず推進力!そして切島くんの硬化で壁をぶち抜く!』

切島を真ん中にし、抱き抱えるように横から緑谷と飯田が壁を破壊し飛び出した。

『開けた瞬間、すぐさま轟くんの氷結で道を形成してほしい!なるべく高く跳べるよう』

轟は、目にも留まらぬ速さで瞬時に氷を出した。高く、上へと。

『敵が僕らに気づいてない!これまで敵に散々出し抜かれてきたけど…今僕らがそれをできる立場にあるんだ!手の届かない高さから戦場を横断する。敵のボスはオールマイトを食い止めてる。これはつまり、逆もまた然り!』

緑谷の言う通り、オールフォーワンは弔たちを支援しようとするが、オールマイトによって妨害された。

『そして、かっちゃんは八木さんが倒れてる近くから氷結が出ているのを見てる。つまり、そこには自分が無理して行かなくても救けだされるとわかるはずだ。 そしたら…切島くんだ。僕じゃダメだ。轟くんでも飯田くんでも八百万さんでも…入学してから今までかっちゃんと対等な関係を築いてきた、友達の呼びかけなら!』

「来い!!」

切島によって伸ばされた手を、爆豪は個性で宙に飛びしっかりと掴んだ。

「…バカかよ」

憎まれ口を叩きつつも、爆豪の顔は呆れたようなでもどこか嬉しそうな高揚感を感じさせる笑みを浮かべていた。

『そしてそこで轟くんだ。僕らが宙に浮いた瞬間、敵は間違いなく僕らに釘付けになる。注意の逸れたその隙に、近くにいる八木さんを氷で滑らせ保護を!』

轟は氷を斜めに出し、凛を滑らせて見事キャッチし、横抱きにした。

「ああ!空も地上も…!」

敵はすぐに凛の方にも気づき、追おうとした。

『そして、ダメ押しに八百万さんだ。両方姿を目視できたら、地上の方を追う確率が高い。創造で煙幕を出し、視界を遮ってほしい。僕らは機動力はあるから逃げられるはずだ』

八百万はすぐに予め創造していた発煙筒に轟の炎で火をつけて、煙幕を出した。
煙幕が広がる中、凛を抱き抱えたまま轟と八百万はその場を離脱した。

さすがに目で確認することができない者たちを、今の状況で高リスクを負ってまで追いかける事は敵たちはしなかった。

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