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爆豪はその頃、死柄木たち敵連合の前に拘束された状態で雄英の記者会見を見せられていた。
死柄木は、責められる雄英の姿を見せながらなぜヒーローが責められてるのか、この社会は正しいのか、縛られ、苦しみ続けた、同じ空気を感じた爆豪に仲間になれと言った。
しかし、拘束が解かれた瞬間
BOOOM!!
爆豪は死柄木に一撃をきめた。
「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!馬鹿は要約できねーから話が長ぇ!要は『嫌がらせしてえから仲間になったください』だろ!?無駄だよ」
爆豪の頭の中には、幼き頃から見続けて来たオールマイトの姿が思い浮かんだ。
いつの間にか追いかけはじめた平和の象徴の姿を。
「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねえ」
―――
テレビの向こう側の記者会見では、未だ雄英が責められ続けていた。
記者になぜ戦うように指示を出したのか尋ねられ、相澤は最悪の事態を避けるためだと説明した。生徒が成すすべなく殺害され、未来を侵されることが最悪であると。
「攫われた爆豪くん、八木さんについても同じことが言えますか?」
記者は雄英が今1番痛いところをついてきた。
爆豪は今まで、体育祭優勝、ヘドロ事件では強力な敵に単身抵抗を続けるなどタフなヒーロー性を感じさせる一方、決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度で精神面の不安定さも露見されている。
「そして、八木さん。今までは上手く隠されて来たようですが、今回を機に踏み込んで調べていくと驚きの事実がわかりました。彼女は、実際の血縁関係はありませんが、オールマイトの娘ですね。そんな彼女が攫われるだけで、十分平和の象徴への抑止になることは明白。もし、そこに目をつけた上での拉致だとしたら?言葉巧みに彼らを勾引かし、悪の道に染まってしまったら?未来があると言い切れる根拠をお聞かせください」
ストレスをかけて粗野な発言を引き出そうとしている事は明らかだった。
しかし、この攻撃的な記者陣に対して、メディア嫌いの相澤はなんと冷静に頭を下げたのだった。
「爆豪くんの行動については私の不徳の致すところです。ただ…体育祭のソレらは彼の理想の強さに起因しています。そして、それは八木さんも同じ。No.1ヒーローの娘としてではなく、1人のヒーローを目指す者として強い心を持っています。誰よりもトップヒーローを追い求め…もがいている。2人を見て隙と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております」
―――
「ハッ。言ってくれるな。雄英も先生も…そういうこった!クソカス連合!」
爆豪は自身が連合にとって、利用価値のある重要人物であると理解していた。
仲間にしようとしてくるということは、本気で殺しに来ることはない。
あとは、もう1人攫われた八木をとっとと見つけ出す。つかあいつここにいんのか?
とにかくその後、2、3人ぶっ殺して脱出したる!!
「言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ!」
爆豪の態度に敵連合は、そろそろ本気で痛い目に一度見させるかと動きそうになったが、死柄木がギロッと爆豪を睨みつけ牽制した。
「手を出すなよ…おまえら。こいつは…大切なコマだ。出来れば少し耳を傾けてほしかったな。君とは分かり合えると思ってた…」
「ねぇわ」
はっきりとだめ押しで言った爆豪に死柄木はため息をついた。
「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた。悠長に説得してられない。先生。力を貸せ」
死柄木のその言葉に距離を取りながら、爆豪は鼻で笑った。
「先生ぇ…?てめぇがボスじゃねえのかよ…!白けんな」
しかし、そんなことは敵側もわかっており、爆豪をもう一度拘束しようと動き出そうとした。
「どーもォ。ピザーラ神野店ですー」
緊張感が高まる中、その場に似つかわしくないシュールな声が響き渡って、皆の動きを困惑で停止させた。
SMASSH!!
するとその生まれた僅かな隙に、彼らのいる建物の壁が勢いよく破壊された。
何が起きか敵連合が混乱するのも追いつかず、すぐにシンリンカムイによって拘束された。
荼毘が炎で木を焼き切ろうとするが、老人とは思えないスピードでグラントリノが脳を揺らした。
「もう逃げられんぞ敵連合…何故って!?我々が来た!!」
壁を壊した張本人、オールマイト率いるヒーローたちが敵連合を一瞬のうちに追い詰めたのだった。
現在、捜査に手間取っているように見せた記者会見はこのタイミングに示し合わせたフェイクだったのだ。
入り口からはNo.5のエッジショットか、外はNo.2のエンデヴァーをはじめ手練のヒーローと警察が包囲していた。
全員、完璧に抑えた。
これでもう簡単には逃げられない。
「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ。少年!」
「こっ…怖くねえよ!ヨユーだクソッ!」
強気に答える爆豪に、ナイスタフネスとオールマイトは親指をグッと立てた。
「ところで八木少女はどこに…」
「わかんねぇ。姿を見てねえし、奴らもこの部屋以外に行こうとした形跡がねえ」
「そうか…」
爆豪の言葉に、凛はここにはいない事がほぼ高い確率で確定された。
オールマイトはもう1つのアジトか、はたまた奴のところかと推測した。
近くにいた爆豪は、オールマイトのただでさえ凄まじい気迫がさらに増したように感じていた。
「黒霧。持って来れるだけ、持って来い!」
死柄木は、黒霧にワープで脳無を持ってくるように命令するが、何も起こらなかった。
黒霧自身も困惑していたのだ。
「すみません。死柄木弔…所定の位置にあるはずの脳無が…ない…!」
「やはり君はまだまだ青二才だ。死柄木!敵連合よ、君らは舐めすぎた。少年の魂を。警察のたゆまぬ捜査を」
八百万の発信機が示すもう1つのアジトには、ものすごい数の脳無がいたが、No.4ベストジーニストをはじめとした実力派ヒーローたちによって既に制圧されていた。
二正面作戦は上手くハマったのだ。
「そして!我々の怒りを!おいたが過ぎたな。ここで終わりだ。死柄木弔!!」
「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…そのためにオールマイトを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…黒ぎっ…」
拘束など関係ないワープ個性を持つ黒霧に死柄木は脱出させるように命令しようとするが、一瞬にしてエッジショットが気絶させた。
さらに、今回動いた敵連合の素性は少ない情報と時間の中で全て掴まれていた。
本当にもう逃げ場はない。
誰もがそう思った。
「ふざけるな…こんな…こんな…あっけなく…ふざけるな…失せろ…消えろ…」
「奴は今どこにいる!?凛ちゃんをどこへやった!?死柄木!!」
「おまえが!嫌いだ!!」
死柄木かわ叫んだその瞬間、黒い液体とともにその中から大量の脳無が現れた。
黒霧の仕業かと思われたが、彼は気絶している。
「お゛!!?っだこれ体が…飲まっれ…」
爆豪も同じくその黒い液体に飲み込まれ、オールマイトが手を伸ばすも届くことなく、完全に姿を消してしまった。
「爆豪少年!Noooooo!!」
外に応援を呼びかけるが、外にも大量の脳無が現れ同じく混乱状態に陥っていた。
脳無格納庫は完全に制圧したと連絡があったはずなぜ。
しかし、オールマイトとグラントリノはこのワープ系の個性を知らずとも、この感じに身に覚えがあった。
奴を、オールフォーワンを知っている2人だからこそ感じ取ったものが。
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[mokuji]
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