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球に閉じ込められ圧縮された爆豪、常闇が連れてかれそうになる直前、隠れていた青山のレーザーが当たって、敵の手元から離れた。
緑谷、轟、障子が奪い返そうと手を伸ばした。
緑谷は前の戦いの痛みで動けなくなる一方、障子は常闇の球体を掴むことに成功した。
「哀しいなあ。轟焦凍」
しかし、轟は寸前の所で爆豪の球体を荼毘に奪われてしまった。
「確認だ。解除しろ」
「っだよ。今のレーザー…俺のショウが台無しだ!」
Mr.コンプレスが指を鳴らすと球体が解除され、爆豪が姿を現した。しかし、荼毘に首根っこを掴まれ、もう体の半分もワープゲートに飲み込まれていたため、脱出は不可能だった。
「問題なし」
「もう1人のターゲットはどうしたんだ?」
「そっちは、もうとっくに黒霧が別ルートで連れてった」
「は…」
Mr.コンプレスと荼毘の会話に轟は一瞬理解ができなかった。
もう1人狙われてた者…凛…まさか!と轟はすぐに立ち上がりゲートの方へ走り出した。
「かっちゃん!」
「来んな。デク」
緑谷も動かない体を懸命に動かし、ワープへ向かうが、願い虚しくワープゲートは閉じたのだった。
「あ…っ…ああ゛!!」
―――
「これは…ひでえな…」
相澤は飯田たちに言われた方向へ生徒を保護しながら向かっていると、不自然に拓けた場所に出た。
そこは元々木々が生い茂る森だったのだろう。しかし、それは今や跡形もなくなぎ倒され、更地となっていた。
その状態自体が、かなり激しい戦闘が行われていたことを物語っていた。
凛がここにいることが高いと思われ、相澤は辺りを捜索した。
「っ…」
そこに凛の姿はなく、代わりにあったのは大量の血痕と、そこで咲かせるように落ちている白と赤の花のヘアアクセサリーだった。
―――
完全敗北
ブラドキングが通報していて、敵が去った15分後、救急や消防隊が到着した。
生徒41名の内、敵のガスによって意識不明の重体15名。
重・軽傷者11名。無傷で済んだのは13名だった。
そして、行方不明者2名。
1人は多くの者がいる目の前で攫われ、もう1人は人知れず姿を消した。大量の血痕を残し。
プロヒーローは6名のうち1名が頭を強く打たれ重体。1名が、同じく大量の血痕を残し、行方不明となっていた。
一方、敵側は3名の現行犯逮捕。
彼らを残し…他の敵は跡形もなく姿を消した。
誰もが楽しみにしていた林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。
―――
翌日、雄英高校では緊急会議が開かれていた。
もちろん今回の事件についてだ。
敵への認識の甘さ、信頼を失った事実。
全てが敵の思惑通りへと進んでいた。
『でーんーわーがー来た!』
「すみません。電話が」
オールマイトは独特のセンスの着信音を鳴らしながら、断りを入れ会議室を出た。
教え子も自身の娘ですら助けられず…なにが平和の象徴か…!何が…ヒーローか…!
凛ちゃんをもう二度とあんな闇の中に、沈めるわけにはいかない!
オールマイトはギリッと手を力強く握りしめて、悔しさや怒りをにじませた。
「すまん。何だい。塚内くん」
「今イレイザーヘッドとブラドキングから調書を取っていたんだが、思わぬ進展があったぞ!敵連合の居場所突き止められたかもしれない」
電話の相手は塚内で、彼が伝えたのは今の状況を打破できるかもしれない朗報だった。
二週間ほど前、聞き込み調査で聞いた男と今回生徒を攫った敵の1人と特徴が合致したのだ。
「事態が事態だ。爆豪くんはもちろん、凛ちゃんはオールフォーワンが相手となるとどうされてるかわからない。裏が取れ次第、すぐにカチ込む!これは極秘事項。君だから話してる!今回の救出・掃討作戦、君の力も貸してくれ!」
しかし、電話越しからオールマイトの返事はなく塚内は不思議に思い、彼の名前を呼んだ。
「オールマイト?」
「私は…素晴らしい友を持った…奴らに会ったらこう言ってやるぜ…。私が反撃に来たってね」
マッスルフォームとなったオールマイトは、怒りとやる気に満ち溢れていた。
その空気を震わせるような姿は、まさに平和の象徴だった。
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