「凛…?」

轟は凛に呼ばれたような気がして、振り返ったがもちろんそこには彼女の姿はなかった。

凛が狙われているとマンダレイのテレパスを聞いてから轟は気が気ではなかった。
時間や彼女の順番からして、まだスタート地点だと予測し、プロがいる場所だから1番安全だから大丈夫だと自分に言い聞かせて、同じく狙われている爆豪を護ることに今は集中しなければと頭を振りかぶった。

常闇の暴走を止め、ここには轟、爆豪、緑谷、常闇、障子が現在集まっていた。

「そうだ…!敵の目的の1つがかっちゃんと八木さんだって判明したんだ」

「爆豪と八木…?命を狙われているのか?何故…?」

黒影が暴走してそれどころではなかった常闇は初耳だった。
常闇の疑問に緑谷は首を振った。

「わからない…!とにかく…ブラドキング・相澤先生、プロ2名がいる施設が最も安全だと思うんだ」

「緑谷。凛は?ペア一緒だったろ?」

轟は震えそうになる声を必死に抑え、無事だと言ってくれと切望しながら緑谷に尋ねた。

「八木さんは多分施設にいると思う。僕は別として、広場にいた生徒はすぐに施設に行くよう言われたし一緒に行くの見えてたから」

「そうか」

とりあえず凛は今1番安全な場所にいると思い、轟は胸をなでおろした。
これで、今は爆豪を護ることに集中できると彼は気合いを入れ直した。

現実はそうではないことを知らずに。


―――


時は遡り、爆豪と凛が狙われてるとテレパスされた頃

『敵の狙いの1つ判明ーーー!生徒の《かっちゃん》と《八木さん》!《かっちゃん》と《八木さん》はなるべく戦闘を避けて!単独では動かないこと!わかった!?《かっちゃん》《八木さん》!?』

「八木くんが!?」
「爆豪!?」

「ダチが狙われてんだ!頼みます。行かせてください!」

「ダメだ!」

切島の必死の嘆願にブラドキングは首を縦に振ろうとはしなかった。
飯田も彼に続き、必死に抗議した。

「敵の数が不明ならば戦力は少しでも多い方が!」
「戦えっ!相澤先生も言ってたでしょ!」

「ありゃ自衛のためだ。皆がここへ戻れるようにな」

「それでも!八木くんはすぐそこで!1人で敵と交戦中なんです!早く行かねば…」

飯田は自分と別れる前の八木の姿が頭に浮かんで離れなかった。
彼女が狙われてると知った今、1人で残すべきではなかったと。

「ダメだ!八木のことはイレイザーに言ったんだろ?ならイレイザーに任せるべきた」

ガタッと物音がして、切島は相澤だと思い直談判するためにドアに近づこうとした。

「待て!違う!」

青い炎が教室の入り口を焼いた。
そこにいたのは、先ほど相澤と交戦してやられたはずの敵だった。
しかし、ブラドキングもプロ。あっという間に敵を拘束した。

「こんなところにまで考え無しなのガン攻めか。随分舐めてくれる!」

ブラドキングの言葉に敵・荼毘は嘲笑った。

「そりゃあ舐めるだろ。思った通りの言動だ。後手に回った時点でおまえら負けてんだよ」

ヒーロー育成の最高峰・雄英と平和の象徴オールマイト。
ヒーロー社会において最も信頼の高い2つが集まった。
ここだ信頼の揺らぐような案件が重なれば…その揺らぎは社会全体に蔓延する。

「何度も襲撃を許す杜撰な管理体制。挙句に生徒を犯罪集団に奪われる弱さ。見てろ。極々少数の俺たちがおまえらを追い詰めてくんだ」

「無駄だ。ブラド。こいつは煽るだけで情報を出さねえよ」

相澤が荼毘を蹴り、黙らせた。
その荼毘は、相澤が最初に接触した荼毘同様偽物ですぐに泥になった。

「イレイザーおまえ何してた!」

ブラドキングの言葉に相澤は戦闘許可を出しに行ったつもりが、洸汰を保護してたと言い、護りはブラドキングに任せ自分は戦線に出ようとした。

「敵が少ねえなら尚更俺も…!」
「ええ!数に勝るものなしです!」

切島が飯田が諦めず抗議をするが、相澤もブラドキング同様聞き入れることはなかった。

「ダメだ!プロを足止めする以上狙いは生徒。爆豪がその一人ってだけで他にも狙ってるかもしれん。情報量じゃ依然圧倒的に負けてんだ。俺たちはとりあえず全員無事でいることが勝利条件だ」

「でも…!」

「飯田。脳無相手にプロの応援を呼ぼうとしたお前たちの選択は正しい。教えてくれた八木の行った先には、俺が向かう」

相澤の強い目に飯田は何も言えなくなってしまった。
そんな彼を確認すると、相澤は戦闘が激化する森の中へと飛び込んでいった。
八木の位置は正確にはわからないが、とりあえず飯田たちが教えてくれた方向に生徒たちを保護しながら行くしかないと相澤は走り続けた。

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