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林間合宿 当日
先日の死柄木の遭遇のこともあり、行き先は当日まで明かされないこととなった。
初日は快晴であり、絶好の林間合宿日和だった。
「え?A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?えぇ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれえ!?」
トッ
「ごめんな」
相変わらずの回る口で、次々とまくし立てる物間をB組の姉御の拳藤が手刀一発で沈めた。
心があれでかわいそうにと、凛は哀れんだ目を物間に向けていた。
「物間 怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まぁよろしくね。A組」
「ん」
物間以外は基本的に友好的なB組、今回は女子がフレンドリーに話しかけて来た。
B組の女子たちまで一緒に合宿すると気がついてしまった峰田は合宿の楽しみがさらに増え、ヨダレを垂らした。
「よりどりみどりかよ…!」
「おまえダメだぞ。そろそろ」
そんな峰田に、そろそろ捕まえるぞ、それよりも凛に半殺しにされるぞと危惧した切島が忠告した。聞こえてるかは定かではないが。
バスの移動中、キャラの濃いA組はなかなかの騒がしさで相澤の隣に座る凛は、いつも通り圧で静かにさせるのかと思ったが彼は何も言わず前を向いた。
凛はらしくないなと思ったが、これが相澤なりのこの先を考えての気遣いだったのは知る由もなかった。
―――
1時間後
バスが止まり、全員降ろされた。
もちろん皆休憩だと思っていたが、そこはパーキングではなく、一緒に来ていたはずのB組の姿もなかった。
「よーう。イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」
決め台詞と決めポーズをして現れたのは、ネコがモチーフの可愛らしいヒーローコスチュームを着た2人の女性だった。
今回の林間合宿でお世話になるそうだ。
ヒーローオタクの緑谷がワイプシだ!と興奮の声をあげた。
4名1チームのヒーロー集団で、山岳救助を得意とするベテランチーム。
緑谷が説明する中で、キャリアが今年で12年にもなると言ったところで、ピクシーボブが「心は18!」と緑谷の顔面に必死の鋭い猫パンチをきめていた。
「ここら一帯は私たちの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
そう言ってマンダレイが指差したところはかなりの距離があった。
そうすると当然浮かんでくる疑問。
なぜ、こんな所で降ろされたのか。
「今は午前9時30分。早ければぁ…12時前後かしらん」
「ダメだ…おい…」
「戻ろう!」
「バスに戻れ!早く!」
嫌な予感がして、多くの者がバスに戻ろうと一斉に走り出した。
しかし、一部の者、そのうちの1人凛はもうきっと無理だなと覚悟を決めた。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「わるいね諸君。合宿はもう始まってる」
地鳴りがしたと思ったら、凛たちのいた地面が盛り上って飲み込み、彼女たちを強制的に崖の下に下ろした。
「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!この…魔獣の森を抜けて!」
土で汚れた体を起こし、凛たちは目の前に広がる森を見据えた。
「雄英こういうの多過ぎだろ…」
「文句言ってもしゃあねえよ。行くっきゃねぇ」
「魔獣の森ということは何か出るのか?」
皆が行くしかないと思う中、凛はただの森ではないはず。何かあると思っていると、ズシズシと低い音を響かせながら、巨大な四足歩行の生物が現れた。
「「マジュウだー!!」」
「静まりなさい。獣よ。下がるのです」
皆が得体の知れない生物の登場に驚愕する中、対生き物ということもあって動物を従える個性を持つ口田が前に出るが、止まる様子はなかった。
「あれは…」
よく見てみると、生物の体は土くれでできていた。
ということは、ピクシーボブの個性だとすぐに理解した凛、そしておそらく同じことを考えた轟、緑谷、爆豪、飯田が土魔獣を一斉に破壊した。
―――
午後5時20分
「やーっと来たにゃん。」
ピクシーボブの言葉に伴い、A組の生徒たちが満身創痍の状態でやっと合宿所についた。
「凛ちゃん。顔赤いけど、大丈夫?熱あるのかしら?」
「いや、大丈夫だ。息が上がったからかな」
凛は、近くにいた蛙吹に心配されたがすぐに大丈夫だと返した。
しかし、本当は息切れもしていて個性も許容範囲を超える寸前だったのだ。
この赤い顔がその証拠である。
危なかったと凛は、安堵した。
「何が3時間ですか…」
「腹減った…死ぬ」
「悪いね。私たちならって意味、あれ」
始まってから7時間ほど経っており、余裕で昼食を食べ損ねたので、瀬呂と切島はお腹を抑えながら話が違うと訴えた。
しかし、マンダレイが返した言葉でワイプシの実力を十分に見せつけられたのだ。
「ねこねこねこねこ…でも正直もっとかかるかと思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら…特にそこ5人。躊躇の無さは経験値によるものかしら」
ピクシーボブがビシッと指差したのは、凛、轟、緑谷、爆豪、飯田だった。
やはり、ヒーロー殺しやヘドロ事件などより多く実践を経験して来たところが大きい。
「3年後が楽しみ!ツバつけとこー!!」
凛は、女性だから巻き込まれることはなかったが、残り4人の男子にピクシーボブが文字通りツバをつけにいった。
「マンダレイ。あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの。適齢期的なあれで」
自分の知っている姿から随分違って見えたのか相澤がマンダレイに尋ねたが、返ってきた答えは返しが難しい内容だった。
「適齢期と言えばーーー…」
「と言えばて!!」
「緑谷、女性に年齢関係の言葉を言うのは失礼だぞ」
そう言えばと緑谷は声をあげるが、NGワードをあがてしまい、ピクシーボブから再びの猫パンチを食らっていた。
凛は、そんな様子を横目で眺めながら苦笑してアドバイスした。
「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」
そうなのだ。ワイプシの近くには5歳くらいの男の子がずっといたのだ。
「ああ違う。この子は私の従兄弟の子供。洸汰!ホラ挨拶しな。1週間一緒に過ごすんだから…」
マンダレイによって紹介された洸汰の目の前に立ち、緑谷は手を差し出した。
「あ。えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
ガンッ!!
洸汰は、その手を超えて緑谷の陰嚢を思いっきり殴ったのだ。
当然、女性の凛には分からない痛みが走り緑谷は前に倒れこんだ。
そんな緑谷にすぐに飯田が駆け寄った。
「緑谷くん!おのれ従甥!何故緑谷くんの陰嚢を!」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「つるむ!?いくつだ君!」
「マセガキ」
「おまえに似てねえか?」
「確かに」
爆豪は、そんな洸汰にふっとバカにしたように笑ったが、轟と凛は爆豪をチラッと見て思ったことを素直に吐き出した。
「あ?似てねえよ。つーかてめぇ喋ってんじゃねえぞ。舐めプ野郎!騎士女もぶっ飛ばすぞ!」
「悪い」
「あ、こんなとこだな」
そこには、全く悪びれてない轟と凛が再び爆豪の人類の誰よりも低い発展に触れるのは言うまでもない。
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