そんなわけで休日にA組−2人で、県内最多店舗数を誇る木椰区のショッピングモールにやって来た。

「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」
「私も見に行こうと思ってた」
「あら、では一緒に回りましょうか」

耳郎の言葉に凛も便乗し、八百万も含め3人で回ることにした。

結局、皆それぞれ買いたいものが異なったため時間決めて自由行動となった。

誰が丈夫かや、デザインはなど買い物を楽しんでいると、3人の携帯がメッセージを受信した。
3人同じタイミングということはクラスのグループメッセージかと思い、携帯を開くとそこには衝撃的な麗日からメッセージが書かれていた。

『デクくんが死柄木に遭遇した』

「緑谷が!!」
「ええ!行きましょう」

2人も既に見ていたようで、行こうとすぐに頷いた。

3人で走って向かっていると、凛は急に腕を引っ張られ、人気のない奥まった所に押し込められた。
しかし、ヒーロー科の凛が簡単に良いようにされるはずがなく、相手の力を利用し、壁に叩きつけた。

誰だと思い顔を見てみると

「おまえ…死柄木か…!?」

そう、現在A組を騒がせている張本人がそこにはいた。
凛は、死柄木と気づくと拘束している手にますます力を込めた。

「緑谷に接触して、何を考えている!」

「そんな怒るなよ。たまたま緑谷に会ったから、ちょっと話をしただけさ。おかげでスッキリしてて今は気分がいいんだ。まさか骸にまで会えるとは思わなかったよ」

凛はその名を言われ、目をキッと鋭くさせた。
死柄木がオールフォーワンと繋がってるのなんてわかりきっているのだから。

「おっと…そろそろ手を離してくれないか。俺の右手見てみろよ」

そう言われ、警戒しつつ右手を見てみると小さな女の子が眠った状態で死柄木に掴まれていた。

「おまえっ…!!」

「迷子になってたから迷子センターに連れて行ってあげようとしただけさ。まぁそれが骸を見かけた後ではあったけどな」

何が迷子センターだ。明らかな人質じゃないかと凛は思いつつも、彼の手がもうすでに直接女の子に触れているため、少しでも個性を発動されればどうなるかは明らか。
凛は、ゆっくり死柄木から手を離した。
そして、その腕を逆に掴まれた。
一気に形成逆転だ。

「ははっ。ありがとう。そうそう。骸、いつまでそこにいるつもりだ?お前の居場所はこっちだろ?」

「何を…!?」

彼の言葉に怒りで目を見開いて凛は、声を荒げようとした。

「『いつまでヒーローごっこをしてるんだ。そろそろこっちに戻っておいで。今なら許してあげようじゃないか』先生からの伝言だ。どうする?」

凛に迷いなど微塵もなかった。
彼女は死柄木をまっすぐ見据えて、決して晒すことはなく、はっきり答えた。

「行くわけないだろ。私はヒーローだ。お前たちのような敵を捕まえるためにここに立っている。何を言っても無駄だ」

彼女の目に、言葉に、全身からの意思に、正面突破の説得は無意味だと死柄木は感じ、まぁそれならそれでとニヤッと笑った。

凛は突然走った腕の痛みにビクリと体を震わせた。
腕がUSJでの相澤同様に死柄木の個性で崩れていたのだ。

「っ…」

「残念だな。最後の忠告だったのに。まぁせいぜい足掻けよ。最後にはどんな形であれ俺らのところに来ることになるんだから」

死柄木はそう言い残し、去っていった。
凛は、女の子や周りに人がたくさんいる手前、腕を抑えてただ見ていることしかできなかった。


―――


人質の女の子はその直後目を覚ました。
彼女の話を聞く限り、死柄木に話しかけられてすぐに眠ってしまったらしい。
彼女が怖がらないように凛は崩壊した側の腕を隠し、手を繋いで母親を探すことにした。
幸い、母親は緑谷の騒ぎで来ていた警察のところにいて、無事に送り届けることができた。

「凛さん!」

するとすぐに、凛に気がついた八百万と耳郎が走り寄って来た。

「ごめんなさい!私たち緑谷さんのところに行くまで気がつかなくて…連絡したのですが」
「迷子の世話をしてたんだね。まぁ無事なら良か…何その傷!?」

耳郎が隠していた凛の腕を怪我に触らぬようとった。
この怪我の状態、そして死柄木が出た今、耳郎はまさかと顔を上げた。

「確かに死柄木と遭遇したけど、怪我はこれだけだ。たいしたことない」

「いや、たいしたことあるでしょ!」
「警察に言って、すぐに病院に行きましょう!」

凛の言葉に心配で怒った2人に腕を引っ張られ、彼女は強制連行された。
凛も心配をかけてしまった手前、大人しく従うことにした。


―――


死柄木遭遇の少し前、轟は母の見舞いに訪れていた。

最近縮まったこの距離に、轟は穏やかな気持ちで過ごしていた。

母は、轟が普段どんなことをしているのかが気になるようで、轟も話すときは積極的に、普段の学校のことを言うようにしていた。
どんな授業があったか、オールマイトが生徒に指摘されて焦ってたとか、友達である緑谷や飯田、麗日、そして八木とお昼を食べたなど。

そこで母の冷は気がついた。
友達である緑谷、飯田の名前はよく聞くから知っているが、同じくよく話を聞く友達の八木の話をするときの轟の表情が違うことに。
母である自分でさえも見たことないくらい甘く、柔らかい表情をするのだ。
もしかしてと思い、冷は口を開いた。

「焦凍。八木さんって、もしかして女の子?」

「うん」

突然の質問にそういえば言ってなかったと思い、特に隠す理由もないため轟はコクッと一回頷いた。

「そう!ふふふ」

すると、母親の顔がぱぁっと明るくなって微笑ましそうに笑うので、轟は疑問を浮かべた。
冷は心配だったのだ。自分が夫とあんなことになって、自分の息子が恋愛自体に嫌悪感を抱いていないか。
しかし、彼を見る限りそんな心配は一切なさそうで冷はほっとした。

「なんでもないわ。でも、その時が来たらお母さんにも紹介してね」

「?…うん」

いつか友達を紹介してほしいってことかと轟は疑問に思いつつも、母の願いに弱い轟はまたも肯定を返すのだった。

面会終了の時間が来て、病院を後にした轟は騒がしいグループメッセージにようやく気がついた。
何だと思って、見てみると彼は驚愕した。

『デクくんが死柄木と遭遇した』

麗日のメッセージの少し後に

『凛もだった。怪我してるから病院に連れてく』

と耳郎のメッセージがあったからだ。

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