凛は、轟に向かおうとするヒーロー殺しの背後をとったが、彼は後ろを一切見ずに剣を凛の足に突き立てたのだ。

「くっ…すまない!轟!」

凛も動けなくなってしまい、轟にヒーロー殺しが迫る。
轟は咄嗟に炎を出すが、ヒーロー殺しの反応速度は異常で近距離でかわされる。

「氷に炎。 言われたことはないか。個性にかまけ挙動が大雑把だと」

ヒーロー殺しの刀が轟の胸元に届くと思われたその時

「レシプロ…バースト!!」

飯田が動けるようになり、刀を蹴り折った。
そのままの勢いで、ヒーロー殺しを蹴り距離を取らせた。

「飯田くん!!」
「よかった…」
「解けたか。意外とたいしたことねえ個性だな」

「轟くんも緑谷くんも八木くんも関係ないことで…申し訳ない…」

飯田の言葉に緑谷は、またそんな事をと怒りで震えそうになった。でも違った。

「だからもう3人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」

一緒に立ち向かう覚悟を飯田は決めたのだ。

「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない!ヒーローを歪ませる社会のガンだ。誰かが正さねばならないんだ」

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」

ヒーロー殺しの言葉に轟は咄嗟に飯田に声をかけるが、彼は小さく首を振った。

「奴の言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など…ない。それでも…折れるわけにはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」

彼の眼にはもう迷いなどなかった。
ヒーローとしての自分を取り戻したのだ。

「論外」

再び始まった攻防にネイティヴは応戦するより逃げたほうがいいと言うが、そんな隙を与えてくれそうになかった。

ヒーロー殺しの個性は持続時間の短さ、近接必須、血液型という不確定要素から多対一は最も苦手なパターンだと思われる。
それでも引かず動きが素早くなっているということは、プロが来る前に飯田とネイティヴを殺したいことは明らか。
凛が先ほど流した情報は、怯んでくれればいいと思って流したハッタリだったが逆に本気にさせてしまったのだ。
ヒーロー殺しの執着は異常だった。

冷却装置がさっきの蹴りで故障した飯田はすぐに轟の方を向いた。

「轟くん!温度の調整は可能なのか!?」

「左はまだ慣れねえ!何でだ!?」

「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

ヒーロー殺しは、飯田を殺すために邪魔な轟を先に止めるために意識が逸れた彼にナイフを投げた。
飯田がそれを身を呈して、腕で庇う。

「ぐぅ…!」

「お前も止まれ」

ヒーロー殺しは畳み掛けるように飯田の腕にナイフを刺し、地面に固定させた。
心配して寄ろうとする轟に飯田は自分のことは気にするなと必死に叫んだ。

「いいから早く!」

緑谷も体が動くようになって、ヒーロー殺しの元まで今の脚でいけるか?と一瞬の迷いが生まれた。しかし、それは一瞬のことだった。

一方凛は、ヒーロー殺しの個性が解けていないため動くことができなかった。
だが、ここでただ指をくわえて見ているだけなんてできなかった。
少しでも可能性があるならと天輪の鎧に換装し、剣を2本出した。
飯田を狙って突っ込んでいくヒーロー殺しの動きが少しでも止まるように、剣を操り剣を弾き飛ばした。

今は脚があればいい!!
今は拳があればいい!!

飯田と緑谷の攻撃が左右から決まった。
しかし、ヒーロー殺しは凄まじい執念で新たな刀を出し、飯田を斬りつけようとした。

「お前を倒そう!今度は…犯罪者としてーーー…」

「たたみかけろ!!」

ヒーロー殺しの動きが初めて止まったここしかないと思い、轟は炎をヒーロー殺しの顔に発した。

「ヒーローとして!!」

飯田は刀を避けて、最後の渾身の蹴りを腹にきめた。
轟はそのまま宙に浮いている緑谷と飯田を氷で受け止めた。

「立て!まだ奴は…」

しかし、ヒーロー殺しが動くことはなかった。

「さすがに気絶してる…?っぽい…?」

「みたいだ。急に動けるようになった」

気絶してヒーロー殺しの個性が解けたのか急に動かすことができるようになった。
凛は動けるようになった体をゆっくり起こした。

「じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは…」

「念のため武器は全部外しておこう」


―――


「轟くん。やはり俺が引く」

轟の右手には、ゴミ置場で拾った縄で拘束されたヒーロー殺しがいた。

「おまえ腕グチャグチャだろう」

「でも君は八木くんもおぶさってるのにそういうわけには…」

そうなのだ。轟の背には顔を真っ赤にさせて両手で覆っている凛がいたのだ。

「轟!やっぱり私自分で歩くっ」

「さっき散々そのやりとりはしただろ。諦めてそのまま俺の背中にいろ事」

ここに至るまで一悶着あったのだが、あれとあれと言う間に半ば強引に丸め込まれてこうなってしまった。

ネイティヴがプロなのに足手まといですまなかったと謝罪するが、緑谷が首を振った。

「いえ…一対一でヒーロー殺しの個性だともう仕方ないと思います…強すぎる…」

「四体一の上にこいつ自身のミスがあって、ギリギリ勝てた」

「そうだな。多分焦って緑谷の復活時間が頭から抜けてたと思う。ラスト飯田のレシプロはともかく…緑谷の動きに対応がなかった」

轟の言葉に凛が頷いた。
それほどまでにヒーロー殺しは強敵だった。

[ 34/79 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -