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職場体験は1週間。
指名のあった者は個別リストから、指名のなかった者は予め雄英からオファーした事務所から選ぶことになった。
「どこにしようか…」
凛は、自分にあてられたオファー一覧を眺めていた。
見る限り魅力的な事務所はいくつかあった。
自分に足りないもの、得たいものそれら全てを吟味した上で、今1番自分が経験しておきたいこと。
やはりより実践的な環境で視野を広げたい。
「となると、ここか…」
―――
職場体験当日
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな。『はい』だ。芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」
駅での相澤の見送りにより、いよいよ職場体験に向けて各々出発し始めた。
「………」
凛はある一点をじっと見つめていた。
そこには、飯田に話しかける緑谷と麗日の姿があった。
「飯田か?」
突然、後ろから声がして振り向くとそこには轟がいた。
「轟…ああ。ちょっと心配で」
飯田の兄のヒーロー・インゲニウムは、今巷をにぎわせる敵のヒーロー殺し『ステイン』にやられたと、ニュースで報じられた。
幸い命に別状はないものの、ヒーローとしての復帰は危うい状況だった。
「何事もなければいいが…」
飯田は少し前の轟と同じ眼をしていた。
誰かを深く恨むあの眼を。
―――
職場体験先に向かうため凛は電車に乗ろうとすると、轟も同じ電車だったらしくわざわざ別れる必要もないため一緒に乗った。
「あ、私次で降りるから」
「俺もだ」
駅まで一緒なのか、不思議なこともあるものだなと思いながら一緒に降りた。
「私あっち側だから」
「俺もだ」
え、方向も一緒なのかと思いながら、そのやりとりを繰り返すうちに目的地に到着してしまった。
「私ここなんだが」
「八木もだったのか」
凛の言葉に轟は目を見開いた。
しかし、驚いたのは同じだった。
なぜならそこは、『エンデヴァーヒーロー事務所』だったからだ。
「いや、そっちこそ…え??」
「まぁ、いろいろな」
困惑する凛に、轟は多くは語らなかった。
彼の中でいろいろ思うところがあったのだろうと、凛も深くは聞かなかった。待つことに決めたのだから。
「そっか。…行くか」
―――
「待っていたぞ。焦凍。ようやく覇道を進む気になったか」
「あんたが作った道を進むきはねぇ。俺は俺の道を進む」
「ふっまぁいい」
さすがはNo.2の事務所。事務所というより豪華絢爛な家である。
しかし、凛はそんな事も目に入らないぐらい目の前で繰り広げられる殺伐とした親子の会話をぽかんと見つめていた。
「で、君が八木さんか」
突然自分に目が向けられ、凛は驚いたがすぐに頭を下げた。
「はい。八木凛です。よろしお願いします」
「うむ。君と焦凍の試合見せてもらった。半分の力しか出してなかったとはいえ、焦凍の氷や様々な能力を無力化しさらに剣術で自分のフィールドに持っていけるという汎用性の高さ。素晴らしかった。ぜひここでの経験を有意義なものにしてくれ。さっそくだが、お前たち準備しろ。出かけるぞ」
「どこへ?」
当然ながら焦凍は疑問を浮かべた。
それに対してエンデヴァーはニッと笑った。
「ヒーローというものを見せてやる」
そう言ってコスチュームに着替えた凛たちを連れ、サイドキックたちがいる部屋に来た。
エンデヴァーは着くなり早々、サイドキックを集め次々と指示を出しはじめた。
「前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し、活動する!市に連絡しろぉ!」
ヒーロー殺しの事件は被害が甚大なため、やはりNo.2が動くのだった。
事件の規模もそうだが、傾向から保須に絞るなど判断の速さ、学べることが多そうだと凛はここを選んで良かったと思った。
職場体験1日目は、保須に移動して終わったのだった。
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