「緑谷!」
「八木さん…」

爆豪VS常闇の試合の前に、緑谷がA組の席に戻って来た。

凛は、一足先にそこにいたのだが、彼の名前を呼ばずにはいられなかった。

2人はお互いの目を見つめた。
普段は恥ずかしがる緑谷も目をそらさなかった。

試合中の凛の会話が聞こえていた緑谷には、きちんと何を意味するのかわかっていた。

2人は同じ思いを轟に抱いていのだと。

「お疲れ様」
「うん。ありがと」

2人が発した言葉はこれだけだったが、言葉以上のものをお互いに受け取った。


―――


順調に試合は進み、体育祭もいよいよ大詰めになって来た。

『さぁいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!決勝戦!轟 対 爆豪!今!START!』

さすがここまで進んだ2人、見事な攻防が続いた。
爆豪は持ち前のセンスで、テクニカルに個性を使い轟を追い詰めていた。
一方轟も動きはいいのだが、緑谷戦以降調子を崩していていつものキレがなかった。

轟はわからなくなっていたのだ。
凛の言葉と緑谷と戦ってから、自分がどうするべきか自分が正しいのかどうか。
忘れてもいいのか、わからなくなってしまったのだ。

「負けるな!頑張れ!!」
「行け!!轟!!」

緑谷と凛の声が轟に届いた。
凛たちの言葉に、轟は再び忘れようとした。しかし、母の顔が頭にチラついた。

その瞬間、轟は爆豪の大技に対抗するため出していた炎を消してしまい、モロにその攻撃を受けてしまった。

ゴボォォ!!

大きな音が鳴り響き、轟の氷が破壊されていく。
一体がおちつくと、見えて来たのは崩れた氷の上に、気を失って倒れる轟だった。

「オイっ…ふっぶざけんなよ!こんなの!こんっ…」

爆豪は怒りで気を失う轟に詰め寄ったが、ミッドナイトの個性によって眠らされた。

「轟くん場外!よってーー…以上で全ての競技が終了!今年度雄、英体育祭1年優勝はーーー…A組 爆豪勝己!!」

炎をしまってしまっていたが、彼の目を見る限り大丈夫だと凛は思った。
あとは彼が自分で乗り越えるべきことだと。

凛は、彼らが運ばれるまで目を離さなかった。


―――


「何アレ…」
「猛獣か?」

始まった表彰式に、凛たちはドン引きしていた。
なぜなら、1位の表彰台にいる爆豪は口にも手足にも頑丈な拘束具を施されており、それでもなお轟の方に何か言いたげに睨みつけながら暴れ続けていたからだ。

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまーーー…締まんねー1位だな」

今は表彰台に3人しかいないが、3位は常闇のほかに飯田がいた。しかし、彼は家の事情で早退してしまったのだ。
理由を知らない凛は、あんなにはりきっていたのに残念だなと思った。

「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」
「私が メダルを持って来」
「我らがヒーロー オールマイトォ!!」

ミッドナイトの紹介で登場したのは、オールマイトだった。
ミッドナイトの紹介と被って、なかなかキマらない登場だったが。
凛は、思わず苦笑した。

まずは、3位の常闇にメダルを授与し、を賛辞とアドバイスを贈った。

そして次は2位の轟に。

「轟少年。おめでとう」

オールマイトは決勝戦で左側を収めてしまったことを尋ねた。

「八木戦で大事なモノをもらって、緑谷戦でキッカケをもらって…わならなくなってしまいました。あなたが緑谷を気にかけるのも少しわかった気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ…俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある」

「…顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

オールマイトは轟を抱きしめ、鼓舞するように背中を優しく2回叩いた。

そして最後に1位の爆豪に。
オールマイトは爆豪の口元の拘束だけ外した。

「オールマイトォ!こんな1番…なんの価値もねぇんだよ。世間が認めても自分が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

しかし、オールマイトは忘れない傷として受け取っておけと無理やりメダルを渡した。

「さぁ!今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!ご覧いただいた通りだ?競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さんご唱和下さい!せーの!おつかれさまでした!!」

良い言葉だったのに、最後の最後でプルスウルトラと言うつもりだった、会場中の者が困惑に陥った。

「そこはプルスウルトラでしょ!オールマイト!」

「ああいや…疲れたろうなと思って…」

父さん…とどこか抜けている父に凛は頭を抱えた。

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