3話


その日の内に退院して、名前は俺の家で同棲することになった。

チャクラを練ることができない名前は、体術があるとは言え、体は子供であるため一般人とほぼ変わらなかった。誰が呪印を仕込んだかも分からず、一人にさせる訳にも行かない。俺の家に居ればそうそう手を出してこないだろうと言うことで、名前の護衛、兼、同棲生活が始まった。

「ハタチ超えて、子供服着るなんて思わなかった……」

名前は、小さな服に袖を通す。大人の服は大きくて、着られるものがなかった。
やっと丁度いいサイズの服を着て、名前はソファに崩れ落ちた。

「チャクラ練られないと、結構しんどいのね」
「まぁ、ゆっくり休みな。任務行ってくる」
「うん。ありがとう、カカシ」

俺は、名前の頭を撫でると任務に発った。念のため、家には結界が張ってある。俺と綱手様以外は、家に入れないようにはしてある。それでも、やはり名前の事が心配だった。

手早く任務を終わらせると、俺はすぐに家に帰る。ガイに何か誘われた気がしたけど、耳を貸す時間も勿体無かった。
家の中に入り、リビングを覗くとソファーで猫みたいにコロンと眠る名前がいた。庇護欲が刺激される。俺は、名前の髪を撫でながら寝顔を眺めた。

「可愛いね、ほんと」

俺の頭の中に妄想が駆け巡る。

「……ん、あ、カカシ。おかえりなさい」
「ただいま」
「何か、変な事考えてたでしょう?」
「え?」

名前の勘の良さには、いつも驚かされる。俺の目を真っ直ぐ見つめる名前に、俺はニヤニヤと笑い掛ける。

「名前との子供が生まれたら、こんな感じなのかなぁって考えてたの。名前に似たら、すっごく可愛い子になるんだろうなぁって」
「カカシに似た方が、絶対可愛いよ!思ったけど、何か突然、結婚の話してくれるようになったね」
「そう?」
「うん。だって、結婚のけの字も無かったのに」
「名前が子供になってね、凄く心が締め付けられた。名前を守れなかった。俺がこの子を守んなきゃって、改めて思った」

名前の頭を撫でながら言葉を続ける。

「それに、名前が一生子供のままで、俺がおじいちゃんになっても、ずっと一緒に居たいって思ったんだ。小さい名前と、ジジイの俺。想像したら、すっごく名前が可愛くてね、それも幸せだなぁって思った」
「カカシ……」

ま、そもそも、ずっと結婚したいって思ってたし。と、俺は恥ずかしさから、ぶっきらぼうに付け足した。
名前は、涙をポロポロと零しながら俺の体に飛び付く。俺は、その体を受け止めた。

「こんな体になっちゃって、戻れなかったら、もうカカシの傍に居られないなって悲しかった」
「バカだねぇ」

木ノ葉イチの美女は、本当にバカだ。

俺が恋人だって言ってるのに、名前に近付く男は数知れず。名前は、優しいし鈍感だから、それが下心ありだとも気付かずにいて。名前の笑顔を前にして、鼻の下を伸ばした男を何人も仕留めてきた。
どうしてそこまでするの?と、友に訊かれることもあった。でも、それは名前と一緒に居たいから。それだけのことで。

「バカで良いもん!カカシと一緒なら」
「はぁ、可愛い」

俺は、名前の頬に自分の頬を擦り付ける。
名前は、くすぐったい!とケラケラ笑いながら、俺から離れようとはしなかった。

「ねぇ、名前。ここに座って」
「ん?」

俺は、名前をソファーに座らせる。リビングの棚の中から、俺は小さな箱を取り出した。それを手の平で隠しながら跪く。

「名前、幸せにするよ。結婚してくれますか?」

俺は、箱を開いて名前に差し出す。

目の前の美少女が流す涙も、俺の目には宝石のように美しかった。どうして名前が流す涙は、こんなにも美しいのだろう。
俺は、未だかつてこんなに美しい涙を見たことがない。
名前は、沢山首を縦に振って声を絞り出そうとしていた。

「はい。結婚……してください」

名前の小さな左手を取り、薬指に指輪を通す。大人の名前に合わせて作った指輪、案の定、その細い指には大きくて俺達は吹き出した。

「ま、大きいよね」
「すぐに大人になるからいーの!」

名前は、嬉しそうに指輪を指にはめてくれた。天使が俺のもとへ舞い降りてくれたと俺は感じた。

「名前、幸せになろうね」
「うん!」



さらに2日後、
綱手様からの命で、諜報部に二人で向かっていた。名前の記憶を探るために。

「カカシ、おんぶ……して?」
「甘えん坊だね」
「ち、ちがうもん!」
「分かってるよ。ほら」
 
呪印で体が蝕まれている名前は、長く歩くのも辛いらしく、俺は名前をおんぶする。初夏の割に外は涼しくて、会話をしていたのに背中の名前はいつの間にか眠っていた。

体が小さくなってから、食事をしていても突然眠ったり、本当の子供みたいに変わっていた。それも可愛くて、俺はその度にニヤニヤが止まらなかった。

「おい、カカシ」
「ん?」

道端で突然声を掛けてきたのは、ゲンマだった。

「お前、その後ろの子」

ゲンマは、眠る名前の顔を覗き込む。訝しげな顔をして、俺は信頼されてないのかなと思った。俺は、名前を下心無しで部下として大切にしてくれる稀有な存在として一目置いているのにね。

「名前に良く似てるけど、まさか……隠し子じゃ」
「何それ…」

流石に、ハタチそこそこの名前と計算が合わないでしょ。そもそも、子供出来ても出来なくても名前とは結婚するんだし。

「んーと、この子ね。名前だよ」
「は?」

呪印で体が小さくなってしまったこと、今から諜報部で調べること、綱手様が呪印を取り去ってくれることを説明した。
ゲンマは信じられないと言う顔をしていた。やっぱり信頼されてない?

「んー、カカシ、着いた?」

俺が動かなくなって、名前は目を覚ます。

「まだだよ」
「そっかぁ、……え、ゲンマさん!?」
「本当に名前何だな?」

知らない内に、元上司のゲンマが目の前にいて、名前は相当に驚いていた。事情があるとはいえ、恋人におんぶして貰っている現場を見られるのは恥ずかしいらしく降りようとする。しかし、俺は太腿を固定してそれを阻止した。

「名前、そんなに小さくなっちまって」
「はい……本当に面目ないです」

ゲンマは、フッと笑う。

「カカシが傍にいるなら大丈夫だろ。まぁ、でも、子供時代の名前がこんなに可愛いんじゃ、またカカシの仕事が増えるな。頑張れよ」
「うん」

名前は、意味が分からないと言う顔をしていたが、俺にはその意味がすぐに分かった。
子供の時から、一点の曇りのない名前の可愛さが皆にバレれば、さらに狙う野郎達が増えるのは明らかだった。それを仕留めるのが俺の仕事。
ま、慣れたもんだから気にはしていない。

ゲンマと分かれて、すぐに諜報部に着いた。

里の有名人である名前の姿に、やっぱり皆驚いていた。体の負担も考え、調査はすぐに手早く行われた。しかし、それでも体に負担が掛かったらしく、名前は途中で気を失ってしまった。
気絶した名前を背負い上げると、担当した特別上忍の男が俺の元へやってきた。

「名前さんの結果ですが、やはり幻術で記憶が操作されていました。幻術が不完全だったため、残った断片的な記憶を繋ぎ合わせましたが、犯人は分かりませんでした」
「そうですか」
「カカシさんが傍にいれば大丈夫でしょうが。こんな呪印を掛けたにも関わらず、連れ去らずそのままにしたのは 犯人のチャクラが無くなったからでしょう。その分、相当に名前さんを何らかの理由で狙っているものと思われます。気をつけて」

綱手様への報告は、私がします。と言って、特別上忍の男は去って行った。

俺は、名前をベッドで寝かせるために家に帰ることにした。

夜になって、名前は目を覚ました。

「起きた?」
「あれ、」
「もう全部終わったよ」
「そっか」
「知りたい?」
「多分、何も分からなかったんだよね。自分でも分かってた」

幼い顔から発せられる、確信を持った口調に激しく違和感を覚えた。忘れてしまいそうになるけど、名前の心は頭は大人のままなのだから。

「分かってたんだ」
「幻術、私の得意だからね」
「そっか、そうだった」
「カカシ、だっこ!」
「え?」
「だっこして!」

突然甘えてくる名前に、俺は戸惑いながらも従う。小さな体を抱き上げるなんて、俺にとって造作はなく。片手で抱き上げた。

「カカシの抱っことおんぶ好きだよ」
「そう?」
「うん。安定感がある。それに、カカシが近いし」

こうやって甘えてくれるのは嬉しい。
体と心が違うのは、辛いに違いない。一番辛い彼女のそばにいても、俺に出来る事は何も無い。甘えてくれると、俺が必要なんだと言う気がする。それが救いだ。

「ねぇ、俺にしてほしいこと、他にある?」
「んーと、これからも側にいて欲しいかな」
「そんなの当たり前だよ。名前は、俺の奥さんになるんだよ?」
「そうだよね!じゃ、特にないかな」
「たまには、ワガママ言いなよ」

言ってますよーだ!と言って、名前はアッカンベーをしてきた。

「やっぱりガキだね」
「ひゃ!酷い!」

こんな普通の会話が幸せだ。名前となら、どんな状況になっても幸せな会話ができると思う。

いや、出来る。間違いなく。

「カカシ」
「ん?」
「辛いはずなのに、すごく幸せ」

この笑顔を守る為に、俺は頑張るよ。心の中でそう決意をした。



prev next

[back]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -