人形姫・11





怪我をした教え子を背負いながら、カカシは里に戻る道を踏みしめていた。

3日間続いた戦争は終わりを告げた。再会と別れ、受け入れ難い出来事に沢山遭った。
たった3日間で人生の精算をさせられたような、いや、させて貰えたような、そんな気がしていた。

背中で精魂尽き果てて眠る教え子。その感触はとても懐かしく、かつて自分が知っていたものよりもずっと大きく重くなっていた。
もうひとりの教え子は、月読が解けた後、探しに来てくれたイルカに背負われている。

「カカシ先生」
「ん?」

サクラは、カカシのボロボロになった裾を握りながら歩いていた。カグヤ戦闘後のサスケとナルトの治療にあたり、彼女も非常に消耗を強いられていたのだ。本来なら彼女を背負ってやりたいが、申し訳ないことにカカシの背中は男ひとりでいっぱいになってしまっている。
サクラは、乾いてしまった唇をゆっくりと動かす。

「名前先生、元気かな」

唐突なサクラの言葉に、カカシは言葉を詰まらせた。そんなの毎日思っている。

「名前先生に会いたいな」
「……俺もだよ」
「でも、名前先生が戦争に遭わなくて本当に良かった」
「そうだな」

そこからは、お互いにただ静かに歩いていた。
忘れていた訳ではないが、戦争中は名前のことを考える暇すらなかった。里はおろか、世界が終わってしまう戦いだったのだから許して欲しい。

ただひとつ思うのは、オビトに会わせたかったなと言うこと。

もうどうにもならないことで、名前のリンのように可愛らしくて優しい所をみたら、きっとオビトが惚れてしまうだろう、だからきっとこれで良かったんだと思うことにした。

名前は今頃何をしているのだろうか。

前の仕事に戻ったのか、もしかしたら学校に行っているのかも知れない。男の影はないと良いが、今は22歳になっている筈で、年頃の女に男が寄らない訳が無い。ああ、想像しただけで胸がモヤモヤする。

気が緩んだ訳では無いが、知らない内にいつもの自分に戻っている。意外と独占欲が強くて、我儘でどうしようもない男。それが、自分だ。
今、目の前で名前の肩を抱く男がいたら、きっと自分は史上最高に不機嫌になって、その男を追い詰めてしまうだろう。そんなかっこ悪い所、見せられたものじゃない。

「あ!」

サクラの声で、サスケもナルトも目を覚ます。
透き通った緑の瞳に映るのは、数日前振りなのに懐かしさを感じる大きな門。

ふと、名前と里の外に出掛けた時のことを思い出した。
里に戻って来た時に、名前は駆け足でカカシよりも早く門をくぐった。そして、こちらを見ている。カカシは何をしたいんだろう?と首を傾げながら門をくぐると、ニッコリと笑いカカシを見上げた。

「おかえりなさい、カカシ」
「……うん」
「えっと、そうじゃなくって」
「あ、そうか。ただいま、名前」

満足そうに笑う名前。
カカシも同じように笑った。

あの日を思い出して、カカシは門をくぐる。背中に感じる温もりに声を掛けた。

「おかえり、サスケ」

見下ろせば愛らしいサクラの笑顔。
サクラの顔を見れば、サスケがどんな表情をしているのか分かった。

「さてと、まずは病院だね。俺もみんなボロボロだし」

踏み締めた土は、懐かしい感触で。

綱手から正式に火影就任を言い渡されたのは、それからほんの少し経ってのことだった。




ー76ー

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