人形姫・07


「俺行くけど、何か困ったら紅に言いな。話はしてあるから」
「はい」

カカシは玄関先に紅の気配を感じる。2日間だけだが、ずっと一緒に居たせいか寂しくなるのが不思議だ。

「じゃあ、行くね」
「カカシさん、お気を付けて」
「うん……ありがとう」

良いタイミングでインターホンが鳴る。紅のやつ、伺ってたなとカカシは思った。

「あら、何その顔。タイミング見てたのよ」
「紅さん!」
「名前ちゃん、今日はおっさん抜きで女同士楽しみましょうね」
「はぁー、酷い女だよ」

やれやれとため息をつくと、印を結びカカシは一瞬で姿を消す。

「急に消えるから、びっくりした……」
「やっぱり可愛いわね。名前ちゃん、どうしたのその髪?腕の良い美容師がいるから、せっかくだから切りに行かない?」
「え?」

鏡に後ろ姿を映すと、腰まである髪の一部分が肩の長さまで千切れていた。
千切れたのか分からないが、そんな表現がぴったりだった。

「………」
「名前ちゃん!?」

名前が不意に尻もちをついた。

「あ、あぁ」

突然頭の中に、あの時の水の映像が浮かび上がる。
美しい水の中。息を吐いて気を失ったあとも、映像は続く。

背後から、ヌチャヌチャ、クシャクシャと音が聞こえた。視界の端に黒い髪がみえる。
自分の髪の毛ではない、ゴワゴワとした蛇のような髪。
その中から青白い手が伸びてきて、名前の髪を引っ張ると、ムシャムシャと食べているのが見えた。

「名前ちゃん?大丈夫?」
「あの、私……」
「突然、尻もちつくから」
「いえ、疲れてるみたいです。大丈夫です!髪切りに行きたいです!」

自分の髪が忌々しく感じた名前は、早く切ってしまいたいと思った。



カカシは、三代目から伝えられた住所に向かう。

インターホンを押すと、奥から声が聞こえた。
玄関を開けたのは、美しい青年。

「あれ?ここに住んでるの女の人じゃなかったっけ?」
「ずっと僕ですが……」

こりゃ参ったな。

「いやぁ、困ってる女の子がいて、ここに同じ経験をした女の子居るって聞いたから来たんだけど……」
「同じ経験?」
「里の外れの森でね……」

青年の顔が曇る。

「それって、しらない世界の……」
「ん?世界を移動した話知ってるの?」
「えっと、それは、私の事です」
「………?」
「僕は昔、女でした。詳しいことは中で……」

火影も男になってることぐらい教えて欲しかった。変にカマかけずに済んだのに。
お茶を差出した青年は、カカシと向き合う。

「早速だけど、話聞かせてもらえる?」
「はい。私はもとの世界では、恵まれた容姿を使ってモデルをしていました。ポスターや表紙を何度も飾ったこともあります。
運命の日は、古都の面影を残す花街を背景に雑誌の撮影をしていました。
舞妓が呼べる立派なお茶屋さんの橋の前で、私はポーズをとっていました。欄干に手を掛け、川を覗き込んだ瞬間、私は川に落ちていたんです。

正確には、黒い塊に引っ張り込まれました。

浅いはずの川にどんどん沈みました。そして気付くと、黒い塊は私の髪を青白い手で掴むと食べ始めたんです。
そこで気を失い、気付くと木の葉の里にいたんです。
森で目を覚ますと、長かった髪は首元まで短くなっていました。

そして、元の世界に戻った時は森の中で彷徨っている最中でした。喉が乾いた私は泉を見つけ、飲もうと手を泉の中に入れた瞬間です。
腕を捕まれ、飲み込もうとしてきました。必死に抵抗していると、息が切れて気を失いました。
起きたら、もとの世界に戻っていました。

それからは、何とかまた普通の生活に戻りましたが、あの花街には近付かないようにしました。
それでも、奴は私を狙っていました。
撮影で庭園の噴水に腰掛けた瞬間でした。また水の中へ体が引き込まれたんです。
水面のむこうに、私を助けようとする方々が見えました。しかし、すぐに視界から水以外のものはなくなり、また奴が姿を現したんです。

見つけたって言って、また私を食べようとしました。トカゲのしっぽもないし、今度は髪もない。とにかくまた抵抗しました。今度は体を掴まれていなかったため、とにかく掴まれないよう必死でした。向こうも私もどんどん沈んでいく。息が苦しくなってきて、もう死ぬと覚悟した時、水が突然流れを変え、私は流れにそのまま流されました。

そして、また木の葉に戻っていたんです。
次会った時には、もう戻れないと思った私は性別を変えることにしました。医療忍者の方に頼んで。

私が美しい女だったから狙ったんです。
水の中を沈んでいくことで、水底を見つけてしまったんです。そこには、まるで寝ているかの様に美しい女達がコレクションの様に並べられていた。水底には海藻のような奴の体毛が彼女達を包んでいた。そして、奴から分身が分裂すると、女の髪を食べていたんです。
恐ろしい光景でした。バケモノが髪の毛を食べているんですよ。
だから、私は女である事をやめました。それからは、もう何もありません」
「……………」
「忍の方が来るなんて、私以外に現れたんですか?彼女、気を付けたほうがいいですよ。美しい女性ならね。奴は相当執心している筈。一度髪を食べられたら何度も何度も狙ってくる。私は大丈夫だった。けど、飲み込まれたら腐るまで奴らの水底で生きていかなければならない。私はそう思います」

カカシは、何度も礼を言い、彼女の家をあとにした。

名前を危険な目に遭わせるわけにもいかない。だが、もとの世界に戻してあげたい気持ちもある。イチからやり直しか?望まぬはずの答えに安堵していて、カカシは頭を抱えた。

ー8ー

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