▼ 023

「ホイホイホイホイフェッフェッフェッ〜〜!!さァ〜〜〜!差し出して貰うぞ!おめェらの仲間を一人よォ〜〜!」
「おい!ちょっと待て!今何しやがったんだ!勝ってたじゃねェか!寸前まで」
「寸前までな!!」
「ぶははははははははは!」

ゴール近くに行くと、もう決着はついていた。ナミたちの負けだ。きっとフォクシーはあのビームを撃ったんだろう。嬉しそうに笑うフォクシーを見ていると腹が立ってきた。

「おい!ウソップナミロビン!どうしたんだ!!」
「大丈夫か!?」
「………………何がどうなったのか。」
「おい……おれ達ァ敗けたのか!?」
「勝ったと思ったらお前ら急にノロくなって抜かれちまったぞ!?」

島からナミ達を見守っていたルフィ達は何が起こったのかわからずに焦りを見せる。何が起こったのかわからないのは、ナミ達も一緒みたいだ。

「ええ、勝ったと思った瞬間…体の自由を奪われたというより、私たちとその周りの全ての動きが遅くなった…船も…波も…」
「全て元通りになった時にはもう…敵はゴールに…」

やはりさっきの、なんて言ったかな。ノロノロビームだ、あのビームを浴びると体がノロくなってしまうんだろうか。ああ、もっとはやく気づいていれば何か対処が出来たかもしれないのに。今更悔やんでも仕方ないけど、やっぱり自分を責めてしまう。

「フェ〜〜ッフェッフェッフェッ!何も不思議がる事ァねェよ。その原因はノロマ光子!!」
「おい、てめェナミさん達に何しやがったんだ!!」
「ノロマ光子だと!?」

フォクシーは得意げに笑う。この能力が合ったからデービーバックファイトを申し込んできたんだろう。だからあんなにも大勢の人達がフォクシーに敗けるんだ。

「この世に存在するまだまだ未知の粒子だ!この光を受けたものは生物でも液体でも気体でも、他の全てのエネルギーを残したまま、物理的に一定の速度を失う!!」
「わからん!バカか!お前!」
「逆ギレだ……」
「いやん!オヤビン!」

打たれ弱いフォクシーは地面に項垂れてしまった。こんな間抜けな奴にやられたなんて、悔しい。

「でも…そんなバカな事が…」
「あり得ない!?わかっている筈だ、この海でそんな幼い言葉は通じねェ!!」
「触れたものみなノロくなる!それがノロマ光子!」
「あァ、そうやって言えばわかるよおめェ。」

そう、このグランドラインにいるからには何が起こっても可笑しくない。あり得ないという言葉なんてものがまず可笑しいんだ。

「おれはノロノロの実を食ってそいつを体から発せられる、ノロマ人間になったのだ!聞くよりも見ろ!この威力!!ハンバーグ!」
「へェ!」

ドウンッ!!と大きな音がなった。ハンバーグがフォクシーに向かって砲弾を打ったからだ。

「ノロノロビ〜〜〜〜ム!!」
「げっ!!」
「飛んでる砲弾が!!」

まるで止まっているかのように砲弾が宙に浮いていた。

「フェッフェッ…光を浴びた全てのものが減速する、人間がこの広い海のどれだけの理屈を知っているというのか…!!このノロノロ効果は約30秒だ、その後速度を取り戻す。フェッフェッフェッフェッ、何事もなかったように…目を疑うだろう!これが…!!ノロノ……」

ボウンッ!!と音がしてフォクシーは真っ黒になった。フォクシーは喋りすぎた。自分で30秒しかノロノロに出来ないと言った瞬間にコレだ。本当に間抜けなんだ。

「オヤビーン!!」
「畜生、つまりアレにやられたのか…」
「あんなのでレースを妨害されたら!!」
「こいつらのこのゲームへの妙な自信はコレか!ふざけた能力持ってやがる。」

ウソップ、ナミ、サンジは焦りを見せる。勝ち目が一気になくなってきたからだ。

「とにかくお前達!わかったでしょ!?お前達は敗けたのよ!」
「第一回戦、ドーナツレース!おれ達の勝ちだ!!」
「いやん!惜しかったわね!」
「第一回戦決着〜〜〜!!!」

ああ、仲間が1人取られてしまう。そう考えると怖くて、足が震えた。隣にいたルフィの腕をぎゅっと握る。どうしてこんなにも怖いんだろう。

「絶対、取り返す。」

ルフィが小さく呟いた。これは私に向けた言葉か、それともルフィ本人へか、それはわからない。

「まずは一人目……おれが欲しいのは……お前!!船医!トニートニー・チョッパー!!」
「おれ!?」
「そんな…チョッパー!!」
「チョッパー!!!!」
「さー早くこっちへ来い〜!!」

フォクシーに指差されたチョッパーが連れ去られてしまった。

「うフェー!何という珍しい生物!想像以上にふっかふかだなオイ!」
「いやん!オヤビン私にも触らせて下さいっ!」
「確かにもらったぞ〜〜!」
「うわ〜〜〜〜〜っ!!!」

フォクシーやポルチェに抱きつかれて泣きそうなチョッパー。嫌だ、嫌だよ。チョッパーがいないなんて。

「チョッパー!」
「あの野郎、狙いはチョッパーだったのか。確かに考えてみりゃあいつは珍獣の中の珍獣…」
「カワイイものマニア!?」
「毛皮マニアじゃないかしら。」
「言ってる場合かおめェら!!こりゃシャレじゃねェんだぞ!仲間取られたんだ!」

ルフィ、サンジ、ナミ、ロビンの悠長な言葉にウソップが全力でツッコむ。言葉が出ないくらい、ショックを受けてるのは私だけなんだろうか。泣いちゃ、駄目。そう思って上を向く。

「みんなァ!!」
「おいおいDr.チョッパー!お前はもうウチの船医なんだぜ!?おれに忠誠を違わねェか!さァ、マスクをつけろ!」
「チョッパー……」
「ごめんな!チョッパー!おれ達が敗けちまって……あァ……くそォ!」

フォクシー海賊団の証でもある目元に付ける黒いマスクを被せられたチョッパーは涙を流していた。

「みんな〜〜〜〜っ!!!おで…ウゥ…おれいやだ〜〜!おれはお前達とだから海に出たんだ!ルフィ!ルフィが誘ってくれたからおれ…海に出たんだぞ!おれ、こんな奴らと一緒になんて…」

チョッパーの叫びに言葉が出ない。ウソップとナミは頭を抱え、サンジの顔色は悪かった。

「ガタガタぬかすなチョッパー!!見苦しいぞ!!」
「ゾロ!!」
「お前が海に出たのはお前の責任!どこでどうくたばろうとお前の責任!誰にも非はねェ!!ゲームは受けちまってるんだ!ウソップ達は全力でやっただろ、海賊の世界でそんな涙に誰が同情するんだ!?」
「ゾロ!?」
「男なら……フンドシ締めて勝負を黙って見届けろ!!」

だから言ったんだ、男って厄介な生き物なんだって。こういうところが頼もしいし、憧れている。ゾロの言葉が響いてか、チョッパーは泣き止んだ。堂々と椅子に座り、ただ私たちの勝利のことだけを考えた。

「よし!!!!」
「もっともだ…まだ2戦ある。ウチの大事な非常食、取り戻してつりがくるぜ…」
「おい、アミ。行くぞ。」
「あっ、待って!」

第二回戦へと向かうゾロとサンジの頼もしい背中を慌てて追いかけた。

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