046

名もなき小島。
私を残して、クザンさんは島の奥に入っていった。
私がいたらまずいんだろう。
途中の島で買ったお肉を食べながら待つことにした。



海は見ている。

世界の始まりも海は知っている。
世界の終りも。

もしも自分が消えたとしても。
すべて知っている。海の導き。

恐れてはいけない。
あなたがいるから、消えてはいけない。

仲間も待つから、進まねばならない。
青き、その先へ。




聞いたことがある、歌。
クザンさんが歌っているみたい。

"死を恐れるな。死んだ仲間のところに進むのが、海兵たる者ではないか。"

決死の歌だったと思う。でも、この歌は好きじゃない。
死んでいく海兵を称えるなんて、私にはゾッとしてできない。


「あ、」


とうとうお肉もあと1つになってしまった。
遅いな…、クザンさん。


「クミちゃん、」
「…遅いです」
「ごめんね」


クザンさんは本当に申し訳なさそうな顔をした。


「青チャリの後ろ乗せて下さいね、飛ぶの疲れました」
「わかったよ」


クザンさんが笑ったから、私もつられて笑い返した。


「誰と会ってたんですか?」


海に氷の道ができていく。
青チャリを漕ぐ音と、波の音が聞こえるだけだった。


「Z…」
「ぜ、Z!?」
「酒を渡してきた」
「お酒…ですか…」
「今から、彼氏に会えるよ」
「ルフィのところに行くんですか!?」


クザンさんは頷いた。
私は後ろから思いっきり抱き着いた。


「ありがとうございます!」
「…、行くのやめようかな」
「えっ!?」


クザンさんが"うそうそ"って笑いながら言うから、後ろから背中を叩いた。


「あらら、怒らせちゃった」
「急ぎましょう!」


青チャリを漕ぐ度に、氷の義足が光り輝く。
その光を見て、少し胸が痛んだ。



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