ドラム王国(001) 東の海(イーストブルー)にあるフーシャ村出身。F型の17歳148cmの乙女座、可愛いものがとにかく大好きで母から貰ったくまのぬいぐるみは手離せない。 ーーーーそんな彼女が、海賊王を目指す青年ルフィと共に旅をしている。 フーシャ村を出て2人だったのが、今では仲間ができて海賊としてハラハラしながらも楽しい日々を過していた。想いが通じ合った2人は互いの愛を深めながら。 巨人島"リトルガーデン"を出た船はただ静かに海をゆく。 船長ルフィと狙撃手のウソップは呑気に歌を歌うが、航海士のナミは呆れた声を漏らした。疲労など感じやしないのだろうか。 「元気ねあいつら…なんだか私さっきのでどっと疲れちゃった…。ビビ、これ指針。見ててくれる?」 ぐったりとした様子のナミが、ビビにログポースを渡した。 ビビはアラバスタという砂漠の国の女王で、ルフィ達とはかつて敵であった。現在アラバスタを支配している「クロコダイル」が管轄している「バロックワークス」という組織に属していたが、王女ということがバレて命を狙われるようになった。ビビの部下イガラムという男に護衛を頼まれた麦わらの一味はビビをアラバスタに届けるべく航海をしていた。 ビビはナミからログポースを素直に受け取り、水平線を見据える。 「これでやっと…アラバスタへ帰れるわね。」 ニッコリと笑うナミにつられて、カルーの隣にいたフミも笑う。カルーとはアラバスタからビビと共にやってきたカルガモのことだ。自分の意思で行動でき、賢い。 「ま、もっともアラバスタへの航海が無事に済めばの話だけど。」 「ええ、私はきっと帰らなきゃ…。だって今王国を救う方法は…」 ーーーその方法は、ビビ自身が国民に直接アラバスタの闇を伝えなければならない。クロコダイルが何者でアラバスタという国に対して何をしているのか。 「必ず生きて、アラバスタへ…!」 「そう力む事ァねェよ、ビビちゃん…おれがいる!」 強気なコックのサンジに思わずフミは小さく拍手した。 「そんな照れるなァ、フミちゃん。本日のリラックスおやつプチフールなどいかがでしょう。お飲み物はコーヒー紅茶どちらでも…」 プチフールとは一口サイズのケーキで色々な種類がある。漂う甘い香りに女性陣の顔も綻んだ。 「「んまほー!」」 サンジがおやつを持ってきたその匂いにつられ、歌っていたはずのルフィとウソップがヨダレを垂らしながらやってきた。 「おめェらの分はキッチンだ。」 「「うおおおっ!!」」 慌ててキッチンへ向かった2人を呆れた様子で見る女性陣。サンジは気にせず、愛らしい女性達に夢中だ。 「フミちゃんはいつものミルクティーでいいんだよね?」 「うん、ありがとうサンジくん。」 フミの好みを把握しきっているサンジは女性が大好きである。もちろん、ナミとビビの好みもばっちり把握済み。 フミの微笑みに対し、サンジは頬を赤く染めてミルクティーを淹れに向かった。 カモメが鳴く声と、波の音だけが響く甲板でナミは本当にぐったりとして、顔色もかなり悪い。 「ごめん…私ちょっと部屋で……」 「ナミちゃん…大丈夫?進路は私たちが見てるから安心して!」 「そうよ、ゆっくり休んで……」 ビビの声を遮るように、ナミはその場にばたりと倒れた。 「みんな来て!大変!!」 ビビが大声をあげてみんなを甲板に呼ぶ。 ハァハァという激しい息遣いと、頬を伝う汗、そして真っ赤な顔から"異常"だということはすぐにわかった。慌ててサンジがナミを女部屋へ運び、男部屋のハンモックとは比べ物にならないほどフカフカなベッドへと寝かせる。 「ナビざん死ぬのがなァ!?」 大泣きしながらナミを見つめるサンジに、ビビは憶測を言うことしかできない。 「おそらく気候のせい…グランドラインに入った船乗りが必ずぶつかるという壁の一つが異常気候による発病…!どこかの海で名を上げたどんなに屈強な海賊でも、これによって突然死亡するなんてことはザラにある話。ちょっとした症状でも油断が死を招く。この船に少しでも医学をかじっている人はいないの?」 医学をかじっていると言えばーーーー ルフィとウソップは苦しむナミを指差す。いつも船員が風邪を引けばナミが面倒をみていた。その本人が倒れてしまえば、もうどうしようもない。 ナミの苦しそうな様子を見て、フミは無力さを感じ手元にあるくまのぬいぐるみを力強く握りしめた。 「でも肉食えば治るよ!病気は!なァ、サンジ」 「それで治るのはルフィだけだよ……」 「あ…そういえばフミに怒られたな」 幼少期の頃フミが風邪を引いた時にルフィに無理矢理肉を食べさせられ、吐いたことがある。 病人にはもっとあっさりしたものを食べさせるべきだとフミは訴えた。 「そりゃ基本的に病人食は作るつもりだがよ…あくまで"看護"の領域だよ。それで治るとは限らねェ」 フミはそっとナミの額に触れてみる。人の体温とは思えないほどの熱さだ。 「そもそも普段の航海中からおれはナミさんとビビちゃんとフミちゃんの食事にはてめェらの100倍気を遣って作ってる。新鮮な肉と野菜で完璧な栄養配分、腐りかけた食料はちゃんとおめェらに……」 「オイ!」 「それにしちゃうめェよなァ!うはははは!」 ルフィはサンジの料理の美味しさを思い出し、空腹を感じた。 ビビはといえば、体温計をナミの脇に挟んだ。 「とにかくおれがこの船のコックである限り、普段の栄養の摂取に関しては一切問題を起こさせねェ。だが…病人食となるとそれには種類がある。どういう症状で何が必要なのか。その診断はおれにはできねェ。」 この船には船医がいない。その必要性を実感せざるを得ない。 「じゃあ全部食えばいいじゃん。」 「そういうことする元気がねェのを"病人"っつーんだ。」 ルフィは病人になったことがないため、わからない。フミが風邪をひいた時も、本当に焦ってコルボ山のダダンにはお世話になったなァと幼い思い出を振り返る。その当時もルフィは何も出来なかった。 「よ、40度!?また熱が上がった。」 「ナミちゃん…………」 フミは泣きそうなのをこらえる。きっと考えられないほどの熱さに泣きたいのはナミの方だろうから。 「アラバスタへ着けば当然医者はいるだろう?あとどれくらいかかる、ビビ。」 「わからないけど…一週間では無理」 ガックリと肩を落とすビビ。アラバスタに着きさえすれば、医者などすぐ見つかるというのに。 「病気ってそんなにつらいのか?」 「「いや、それはかかったことねェし」」 ルフィの問いにウソップとサンジが首をかしげる。三人とも病気にかかったことがないようだ。 「あなた達!一体何者なの!?」 「病気は辛いよ…38度でも私は苦しくて死にそうだったの……。40度なんて高熱そうそう出ないよ。もしかしたら……命に関わるかも…」 フミの言葉に三人ともやっと病気の危険性がわかったのか、驚き叫び暴れ始めた。ナミが死ぬかもしれない、と。 騒がしい声にナミが少し皺を寄せた。 「うろたえないで!静かに!」 「医者を探すぞ、ナミを助けてもらおオオ!」 「わかったからっ、落ち着いて!病体に響くわ!」 「…………だめよ。」 ナミの、小さな声が聞こえた。 突然むくっと体を起こしたナミの息遣いは荒い。その場の全員がナミの顔色の悪さに息を呑む。 「私のデスクの引き出しに…新聞があるでしょ…?」 フミはナミの背中を優しく摩り、ビビはナミのデスクの引き出しから新聞を取り出した。 それを読んだビビは、目を見開き顔を青くさせた。 「おい、何だどうした?」 「アラバスタのことか!ビビちゃん」 新聞によれば、アラバスタの国王軍の兵士30万人が反乱軍に寝返ったと書かれていた。もともとは国王軍60万人、反乱軍40万人で鎮圧戦だったが、これだと一気に形勢逆転だ。国王である父を心配するビビ。 「これでアラバスタの暴動はいよいよ本格化するわ…。3日前の新聞よそれ。ごめんね…あんたに見せても船の速度は変わらないから、不安にさせるよりと思って隠しといたの。」 背中から伝わる熱に、フミは困惑する。ナミの熱は普通の風邪では無いかもしれないと悟った。 「わかった?ルフィ」 「大変そうな印象をうけた…!」 「そういうことよ、思った以上に伝わってよかったわ。」 「でもお前、医者に診てもらわねェと…」 「平気、その体温計壊れてんのね…。40度なんて人の体温じゃないもん。きっと日射病か何かよ。医者になんてかかんなくても勝手に治るわ。」 ナミはベッドから立ち上がり、歩く。日射病なわけがない、とフミはわかっていた。いや、ナミ自身が1番わかっているがそれを隠し通すつもりだ。 「とにかく、今は予定通りまっすぐアラバスタを目指しましょう。心配してくれて、ありがとう。」 振り返ってお礼を言うナミは無理をしているのは明白。フミは追いかけて、ナミを肩から支えた。 「おう、なんだ治ったのか…」 「バカ、強がりだ。」 ルフィとウソップがナミの背中を見つめる中、ビビは新聞を見つめたままだった。このままでは、じきにアラバスタの国中で大量の血が流れる戦争になる。 「それだけは阻止しなきゃ。アラバスタ王国はもう…終わりだ…!クロコダイルに乗っ取られちゃう。もう無事に帰り着くだけじゃダメなんだ…一刻も早く帰らなきゃ…間に合わなきゃ100万人の国民が無意味な殺し合いをすることになる!」 「100万人もいんのか人が…!」 「なんちゅうもんを背負ってんだビビちゃん。」 ーーー王族というものは、国民の未来を背負っている。 その重さを、ビビ以外理解したくともできない。 新聞をクシャクシャに握りしめたビビをどう慰めればいいのかわからないサンジは静かに火をタバコに灯した。 next 戻る |