「なまえの好きなところは?」
「全部」
「なまえをいつ好きになった?」
「おれに小銭入れくれた時」
「なまえは今どこにいる?」
「たぶん医務室か甲板」
「なまえがもし別れようって言ってきたら?」
「え………嫌だ。」
ウソップの質問攻めに答えていってたけど、最後の質問だけは考えるだけで嫌になった。なまえと別れるとか考えられねェし、絶対にやだ。
「ほんと好きだな、なまえのこと」
「急になんだ?こんな質問ばっか」
「いやー……ルフィが"恋愛"を知ってるなんて思ってもみなかったからな。」
「恋愛は知らねェけど、なまえが好きってだけだ。」
「それが恋愛なんだよ。」
確かエースにも言われたな。それが恋なんだ!って。恋とか愛とかわからねェけど、なまえといると楽しいしドキドキするし、幸せだ。
ウソップはニヤリと笑って、なまえが今どこにいるか探しに行こうと提案してきた。おれの答えが合ってるのか確かめたいらしい。
男部屋から出てすぐの甲板を見渡せば、なまえはいなかった。
「あとは医務室か……」
「たぶんさっきまで甲板にいたぞ。」
「なんでわかるんだよ」
「ほら、なまえが今日頭につけてたリボンが落ちてる」
朝に真っ白なリボンを付けていたのを思い出した。可愛いなァって思ったのは秘密だ。
ウソップはリボンを拾って、おれに渡してきた。
「よし、医務室に行ってみるか」
「診察中じゃねェか?」
「そうなら時間かかるかもな」
なまえは悪感症という病気で死も近い。最初聞いた時は本当に信じられなくて、泣くのを我慢できなかった。今でも不安で悲しい、けどもっと辛いのはなまえだからおれは最期まで笑って隣にいようと決めた。
医務室に行ってみると、"診察中"という板は無くて二人の話し声が微かに聞こえた。
「入っていいのか?」
「おーい!チョッパー!入っていいか?」
「ルフィか?おう、いいぞ!」
ガチャリと扉を開けると椅子に向かい合わせで座っているチョッパーとなまえがこっちを見ていた。
「どうした?怪我でもしたのか?」
「なまえを探してたんだ。」
「くっそー、場所もわかっちまうとはな。」
「おれの勝ちだ」
いつから勝負になったかわからないけど、ウソップは悔しそうだった。なまえとチョッパーは目が点になっている。
「ルフィに今なまえはどこにいるか質問したんだ。で、ルフィは見事当てたってわけだ。」
「ルフィすげェ!」
「なんでわかったの?」
「んー……なんとなく!」
「愛の力だな。」
「あ、愛!」
愛に反応してなまえは頬を赤く染めた。なんでこんな可愛いんだろう、こいつ。他の男の前で可愛い仕草されるとムカつくけど、見惚れてしまった。
「あ、そうだ…これ拾ったんだ」
「それ!探してたの!ありがとう、どこに落ちてた?」
「甲板に落ちてたぞ」
「よかったー…海に落ちてなくて」
リボンを受け取ったなまえはすぐに髪を結び始めて、ポニー……なんちゃらにしていた。すっげェ可愛い、と素直に言えばなまえはさっきよりも頬を赤くした。
「こらこら、ここでイチャつくな!」
「どこならいいんだ?」
「どこならって……人目につかねェような場所とか」
「じゃあそこ行くか!なまえ」
「イ、イチャつきに行くの?」
「おう!」
ボンッと音が鳴った気がした。なまえの顔は真っ赤で、あまりの可愛さにその場で抱き締めてしまった。
「だから!ここでイチャイチャすんじゃねェエエ!!」
「行くぞ、なまえ!」
おれはなまえを離して、手を握り医務室から出た。人目につかない場所か……倉庫にしよう。
「どこ行くの?」
「んー?倉庫!」
「な、なにするの?」
「なにしたい?なんでもしてやる。」
「えっ………じゃあ、抱きしめて」
「それだけでいいのか?」
「うん。それだけで嬉しい。」
すぐに倉庫について電気をつけて鍵を閉めて、なまえをぎゅっと抱きしめた。小さくて柔らかくて甘い匂いがして、キスをしたくて身体を離せば怒られた。
「離さないで」
「キスしたい」
「ダメ、もう少し待って」
それからおれの腹の音が鳴るまでずっと抱き合っていた。なまえと昔話や世間話をしながら過ごす時間がとても幸せだったと今は思う。
なまえが死んで、今日初めて倉庫に来た。倉庫で抱きしめ合っていたあの日から1回も倉庫に来ていなかった。サンジにワインを取って来いと頼まれなかったら絶対に来ねェ場所だった。
思い出しただけで泣きそうになる。もっとあの時強く抱きしめてればよかった。キスしたらよかった。後悔してももう遅ェ。
ワインを見つけてすぐに出ようと早く歩く。下にあった段差に気付かず転けて、顔面を打った。
「いてっ!」
ゴムだから痛くねェのに、ついつい言ってしまった。転がったワインは棚の下に入るし、最悪だ。手を伸ばし、ワインを掴むと何か違うものも掴んじまった。
「あっ………」
それは少し埃のかぶった白いリボンだった。そういえばあの後、またリボンを失くしてたなァと思い出す。
なまえに会いたい。リボン見つかったぞって言ってねェし。届けてやらねェと、髪が結べねェ。
あの後みんなで探したよな、リボン。けど無くて新しいの買いに行ってもいいのが無くて、結局諦めたんだよな。こんなとこにあるなんて。
「ルフィー?すごい音したけど…」
ナミの声がする。ゆっくりと近づいてくる足音、けどおれは動けねェ。
「なにして………泣いてるの?」
「泣いてねェ。」
「………あ、それ…」
「……なまえのリボンだ」
「見つかったのね。」
ナミはリボンに触れて、埃を払う。
「なんでなまえがこのリボンを必死に探してたか、わかる?」
「…なんでだ?」
「ルフィが可愛いって言ってくれたからって言ってたわ。」
胸がぎゅっと掴まれたみたいに苦しい。生きてたら今すぐなまえの元に走って抱きしめてキスすんのに。なんでだよ、なんで……死んだんだ。
目の前のナミも泣いてる。たぶんおれも泣いてる。だって視界がぼやけてるから。
「会いたい……会いたいな、なまえに。」
「ごめ…ん……辛くなるだけなのに……」
「辛いけど、もっと知りたい。まだまだ知らないことが沢山ある。」
死んだからって忘れていくのは嫌だ。いつかなまえの顔も忘れるなんてことになったら、おれはおれを許さない。だから毎日なまえの話をして、毎日なまえに話しかける。きっとなまえは空の上で笑ってくれるはずだ。なまえが悲しまないように、おれが毎日相手してやるんだ。だから、待ってろよ。おれが行くまで、死ぬまで、退屈させねェから。
今日が土砂降りの雨なのはなまえが一緒に泣いているからかもしれない。だから明日が晴れになるように、おれはめいいっぱい笑うことにする。
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