「お前の為にここにいる。」
はい?
「こんなバカな高校お前がいなきゃ来ねェな。」
少女漫画の読み過ぎじゃないか。
幼馴染のローは真顔で寒い台詞を言ってしまう、それはほんと昔からだ。あれは確か小学2年生の頃、彼に出会いそして…惚れられてしまった。
無表情で性格も悪い彼だがあのルックスのため、モテる。なぜ顔も頭も運動も並かそれ以下の私に惚れているのかは不明。
迫られたらいつも私はこう言う。
「なんで私なの」
別にローが嫌いとかそういうわけじゃない。ただ、ローの人生が私中心に回っていて申し訳なく思っていた。もっと美人でもっと優しい子なんてどこにでもいるのに。
「なまえが好きな理由を聞いてんのか?」
はぁ、とため息をついて私は何も答えなかった。
「とりあえず付き合うか」
「なんのとりあえずよ。絶対にいや。」
「おれはなまえを幸せにできる。」
「でも私はローを幸せにできない。」
ちょっと今の台詞かっこよくなかったか?とか馬鹿なことを考える。
ローはポカンとして何言ってんだこいつとでも言いたそうな顔をした。バカにするなら笑えよ。
「おれは今幸せなはずだ」
「はい?」
「今こうしている時間が幸せだ。馬鹿、言わせんな。」
二回言うが、こいつ少女漫画の読み過ぎだろう。それじゃなきゃこんなクサい台詞はけるはずがない。という悪口を考えているといつもバレて頭を強めに叩かれる。
「いつになったらおれに惚れるんだ」
「いつになったら私を好きじゃなくなるの?」
意味のない質問のやり合いだ。そういえば隣のクラスのハンコックさんとか美女だし、同じクラスのビビちゃんは優しいし、選び放題のはずなのに。
「何回言わせれば気が済むんだ?別に顔で選ぶわけじゃねェ。」
「じゃあなに?私の何がいいの?」
前の席に座って横向きのローの横顔をじっと見つめながら、聞いた。
「だからさっきも言っただろ。お前といるだけで幸せだ、と。」
横を向いていたローの顔が私を見た。こんなの不意打ちだ。カーッと熱くなっていく顔を見られたくなくても逃げ場がない。
「なっ、なんなの……」
「だから、付き合え。」
「教室でこんな事言うな!」
「照れてるなら照れてるって言え。少しくらい可愛く見える。」
「本当に私のこと好きなわけ!?」
「好きだ。」
地雷を踏んだと、後悔した。初めて好きとストレートに伝えられて、より熱くなっていく体。絶対好きだなんて言わないと思っていたのに。こんなに真剣だなんて思わなくて、どう答えていいかわからない。
「やっと意識したか?」
「しっ、してな………」
グッと顔が近くに来て、開いていた口を閉じる。あと1cmで鼻と鼻がくっ付きそうだ。そろそろクラスの子の視線が気になってきたけど、気にしてる暇なんてない。
「離れろよ」
「え?」
「キスでもされてェのか」
近づいてきたのはそっちじゃない!と反論したくなったが、離れなかった私も悪い。離れなかったというより、固まって動けなかった。
ニヤリと得意げに笑うローに腹が立って、なにか仕返しをしたくなった。一発ぶん殴ろうか一目散に逃げ出そうか……。そんなことはローの予想の範囲内だろう。
「ロー……」
「殴るか?逃げ出すか?」
やっぱりバレていた。もうここはこうするしかない、と私はローの頭を両手で鷲掴みにした。まだ余裕よ笑みを浮かべるローのその唇に自分の唇を押しつせた。やっとローの表情が変わった。目を見開いて驚いているのがわかる。
そして、クラスの子達がキャーとかワーとか言いながら私達を見ているのが視界の隅に映った。
「これでどう?」
今度は私が得意げに笑う。初めてローに勝てた気がして、嬉しさのあまり舞い上がる。
ローの顔をちらりと見ると耳の部分が赤くなっていて、突然恥ずかしさが込み上げてきた。私何してんだろう、好きでもないのに。
「惚れるのも時間の問題だな」
いつも余裕がないのは私の方だ。ローが私を惚れさせる立場なのにどうしてこんなに余裕なのか。
きっとローは私が惚れることをわかっていたからなんだろうと、今になって思う。もう私はローがいなきゃ無理なほど惚れてしまっているんだけど。
back