午後三時。調査兵団内で行われる極秘会議がある。どこでしているのか、どんな話をしているのかはそこにいる人物しか知らない。ただ噂だけは兵団内で流れていた。三時になると兵団が誇る幹部たちが消えるからだ。探しても呼んでも見つからない、彼らはどこに行ったのか。
とある一室に集まる五人の人物。一つの机を囲み、上座に座るのは勿論兵団団長エルヴィン・スミスだった。その右斜め前の座るのは人類最強の男と謳われるリヴァイ。その隣に座るのが巨人の匂いを嗅ぎ分けることができるミケ・ザカリアス。ミケの前に座るのが巨人の研究を楽しむハンジ・ゾエ。そしてハンジの隣、リヴァイの前に座るのが人類最強の女なまえだった。
机の上には五つのカップとパウンドケーキだった。これはエルヴィンが内地に訪れた時に貰ったものだ。紅茶の香りが溢れ、リヴァイは独特な持ち方で紅茶を飲む。

「では、本日も始めよう」

パウンドケーキを一口食べたハンジは頷き、椅子から立ち上がると引き出しから何かを取り出した。それをミケに手渡す。

「今日はレモン?」

「ああ、俺が淹れた」

「さすがリヴァイ」

リヴァイが淹れたレモンティーをなまえは嬉しそうに飲んで、目の前に置かれた束を手に取った。なまえと同じように他の四人もミケによって配られた束を手に持つ。そしてお互いの顔色を窺い反応を見る。突然、なまえが笑い始めた。

「ハンジ!わかりやすいよ」

「馬鹿!やめてよ!」

顔に出ているハンジになまえは笑いが止まらない。眉がピクリと動き目も泳いでいた。
午後三時、調査兵団幹部達がある部屋に集まって行うこと…それはババ抜きだった。まさかこんなことをしているなんて他の兵士達に見られれば何を言われるかわからないがこれには理由がある。何も毎日これをしているわけではない。
壁外調査の後、成果や亡くなった人の情報や遺品などまとめて書類に書かなければならない。それは各自の班長がするのだがそれ全部に目を通してチェックする者がいる。これほど面倒くさい仕事はないのだが、それを誰にするかをババ抜きで決めていた。
今のところ全員が一敗していて決着がついていない。

「じゃあこの前負けたエルヴィンから」

エルヴィン、リヴァイ、ミケ、ハンジ、なまえの順番で引いていくことになった。ハンジがジョーカーを引いたことは表情を見れば手に取るようにわかる。一週目はジョーカーの変動なしに回った。

「このままクソメガネでいいだろ」

「何言ってんのリヴァイ、絶対書類のチェックだけは嫌だよ」

「全員やりたくないからここにいるんだろう。」

ミケの最もな意見にハンジは何も言い返せず、ミケのカードを引いた。次はなまえがハンジのカードを引く番だ。ここでハンジはやっと本気を出す。序盤はふざけているものの、本当は隠すのが上手いのを全員知っていた。まんまとなまえはジョーカーを引いてしまうが二人とも表情に出さないため三人にはバレずにいた。

「次は私だな」

エルヴィンが引いたのはさっきなまえが引いたばかりのカード。つまりジョーカーだ。肩がピクリと跳ねてしまい、勘のいいリヴァイとミケは気が付いた。今、ジョーカーを引いたのだと。

「なまえ、いつの間に引いてやがった」

「あら?気が付かないなんて、人類最強も落ちたものね」

なまえがリヴァイを嘲笑う。盛大に舌打ちをしたリヴァイはエルヴィンを睨み付けた。普通の数字のカードを引いたリヴァイは二枚揃う。カードの数も減ってきてエルヴィンは焦りを覚えた。

「あ!私あと二枚!」

ハンジが嬉しそうに騒ぐ。その言葉に余計にイライラしたのかリヴァイは紅茶を飲み干した。そしてまたエルヴィンのカードの中からリヴァイが引く時が来る。

「リヴァイ引け!」

「黙れ、なまえ。俺は集中したい」

「ババ抜きに必死か!」

この後の書類のことを考えると誰もが必死になる。それほどあれは面倒くさい仕事だ。徹夜して三日ほどかかる。恐る恐る手を伸ばしたリヴァイの手はある一枚のカードを捉えた。ミケはじっとエルヴィンの顔を見る。リヴァイよりはわかりやすいからだった。
リヴァイが一枚のカードを引いた瞬間に、エルヴィンの顔が少し綻んだのがわかる。

「引いたな………」

小さなミケの声にリヴァイは何も答えず、自分の手持ちのカードを組んでからミケの前に掲げた。ミケはリヴァイの顔をじっと見てカードを一枚一枚触っていくが顔が崩れることはない。これは運に任せるしかなかった。勢いで引いたカードは数字で、二枚揃う。

「今誰なの!?わからない!」

エルヴィンなのかリヴァイなのか、またはミケなのか。三人の顔を見渡すハンジだが誰かはわかっていない。残り枚数二枚だというのに。直感を信じることにしたハンジは目に留まったものを引いた。

「あ!!」

同じ数字が揃い、あとは一枚。なまえが引くだけだ。

「ちょっと……嘘でしょう…」

「早く引いてよなまえ!」

なまえが悔しそうな顔でハンジのカードを引く。ハンジの手元には一枚もカードがなく、ババ抜きに勝利した瞬間だった。なまえとリヴァイから舌打ちが聞こえてもハンジは嬉しそうだ。エルヴィンがなまえのカードを引き、リヴァイはエルヴィンのカードを引いた。次はミケが引く番だ。ジョーカーを引くか数字を引くか。

「今、誰なの?」

ハンジは全員の手札を後ろから見ようとするが、全員見せることはしなかった。絶対にハンジは顔に出すとわかっていたからだ。
ミケはゆっくりとカードを引く。そしてカードは揃った。これで残り一枚。あとはなまえに引かれるだけだった。

「ミケまで!!」

ミケのカードを引くと数字でなまえは安心するが、残り三人。なまえの手持ちはあと二枚。エルヴィンは三枚。そしてリヴァイはジョーカーと数字の二枚。エルヴィンがなまえのカードを引くと残り一枚になった。エルヴィンもカードが揃いあと二枚。
ハンジは面白い展開にニヤニヤが止まらない。ミケもどこか楽しそうだ。リヴァイがエルヴィンからカードを引くが揃わない。

「チッ!!」

「リヴァイ、怖いよ…」

「さっさと引け」

これで同じ数字が出ればなまえは抜けることができる。ただ、ジョーカーの可能性もあった。ゆっくりとカードに手を近づけて勢いよく抜く。

「あああっ!」

違う数字で項垂れる。心臓がバクバクと煩く、巨人を目の前にした時と同じ気分だ。エルヴィンがスッとなまえからカードを引くと笑顔になった。つまり、それは。

「悪いな…」

揃った二枚のカードをエルヴィンは机に置いて笑う。これで残りはリヴァイが二枚、なまえが一枚だった。

「絶対嫌だからね!!」

「お前には負けてもらう」

ずいっとリヴァイはなまえの近くに二枚のカードを突き出した。背面は全く同じ柄をしているこのトランプ。選択を間違えると地獄をみることになる。汗で手はびちょびちょで喉は乾ききっていた。
ゆっくりゆっくりと手を近づけていく。誰かの息を飲む音が聞こえた。なまえから見て右側、そのカードを手に持って恐る恐る抜こうとした瞬間……誰も来ないはずの扉が開かれた。

「す、すみません!部屋を間違えました!!」

兵士が三名ほど、何か本を抱えて入ってきた。幹部の顔をみて慌てて頭を下げているが、ババ抜きをしている彼らを疑問に思わないわけがない。とうとう見つかってしまった、とエルヴィンは頭を抱えた。が、頭のきれる彼はすぐに思いつく。

「次回の壁外調査に資金が必要でね。出資してくれるはずだった貴族達にこれで遊ぶよう命じられたところだ。あまり疑わないでくれ」

「い、いえ!疑ってなど!!」

最もらしい理由にハンジとなまえは関心した。兵士達は慌てて出て行き、エルヴィンは小さく息を吐く。

「あああ!!」

悲鳴にも似たなまえの声がして全員が彼女を見る。顔は真っ青で手が震えていた。ジョーカーを引いてしまったのか、彼女の手を見ると持っていたはずのカードがない。そしてその直後ハンジの叫び声もした。
なまえが抜いたカードは飲んでいた紅茶の中へと落ちてしまったのだ。カップの中を見るとピエロは嘲笑っているようにも見えた。ジョーカーだった。

「これは……」

「チッ、何してんだ」

「どうしよう!」

「もうババ抜きはできないね」

「………違う方法を考えるか」

「……すみません……」

なまえは深々と頭を下げて謝る。が、内心こうなって良かったと思っている者が二名。最後まで残ったなまえとリヴァイだった。
午後三時、ある部屋で行われる極秘会議本日は終了です。

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