オレが兵長の班に入った時にはもうなまえさんはこの班にいた。オレのように兵長の管理下でオレのように『特殊』らしかった。異世界人で、背中に羽をはやせられるなんて初めは信じられなかった。けど実際あの天使のような白い翼をみれば誰もが信じる話。

本物の自由の翼で飛ぶなまえさんにこの時初めて恋というものをした。巨人を駆逐したいと話せば一緒に頑張ろうねと言われた。そんな優しい彼女に惚れたんだと思う。

「エレーン!エレン?」
「え、」
「ボーッとしてるよ?」

翼で飛びながらオレにふわりと笑うその笑顔も好きだなぁとか思いながら笑い返した。

「なまえさん、なにしてんの?」
「あー、またなまえさんになってる。敬語はやめてって言ってるのに。」
「ごめん、けど兵長が睨んでくるんだよな。」

兵長はなまえさんを娘のように思っているから、オレが彼氏になるまでは大変だった。今でもなまえと呼ぶとすごい形相で睨まれる。

「リヴァイはもう仕方ないよ。」

そう言いながら笑うなまえはオレの苦労を分かっていない。兵長に認めてもらうまで大変だったんだからな。なまえは渡さんって。

「で?なにしてたの?」
「エレンが掃除してるの見えて飛んできたの。」
「羽落とすなよ、掃除するのオレなんだからな。」
「もう、冷たいなー。私の羽人気なんだからね?美しいって!」
「美しいって自分で言うなよ、他のやつが持ってんのが腹立つんだよ!」

なまえの羽をポッケにいれて、お守り代わりにしてる奴もいるから巨人化して踏んづけようかと思うくらいムカつく。いや、そんなことしねぇけど。

「そんなに私のこと好きなんだ?」

たまに見せる、大人の顔にドキリとした。いつも子供みたいなくせにこういう時だけ大人になる。大人の魅力だと思うよとアルミンが言っていたのを思い出す。

「悪いかよ……!」
「ぜーんぜん!エレンが私の羽を大事に持ってるの知ってるからねっ!」
「ミカサのやつ!!」
「ありがとう、エレン……大好き……!!」

翼が消えて白い羽が舞う。なまえがオレの胸に飛び込んでくるから手に持ってた箒が落ちた。強く抱きしめると太陽の匂いがする。

「どこにも行くなよ。」
「心配しないでも、どこにも行かないよ。」

たまに夢を見る、なまえが元の世界に帰るそんな夢だ。いつか本当に帰ってしまいそうで怖くなる。

「おい。エレンよ掃除はどうした。」

ドスの効いた兵長の声に、パッと手を離してなまえから距離を取る。慌てて箒を拾って敬礼する。

「もう…!リヴァイ邪魔しないでよ!」
「バカか。なまえは飯でも作っとけ。俺はお前以外の飯は受け付けない。」

サラッとかっこいいことを言う兵長はライバルなんだろうか。そんなセリフにときめきすら無いらしいなまえは文句を言いながらオレに手を振って食堂に向かって行った。

「あまりあいつに執着するな。」
「な、なぜですか…!」
「後悔しても知らねぇからな。」

兵長はなにを知っているのか。なまえの世界のことをなにか。そのあとオレはなまえに会うことはなかった。食堂にいたはずのなまえは一枚の羽を残したまま、どこにも姿を表さない。兵長だけが、なぜか納得したような表情を浮かべていたのを意識が朦朧とする中で見た。

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