こんなに真夜中に海の中にいる私はバカだと思う。海賊をやっていた私はどうしてもその一味から逃げ出したかった。私には合わなかったからだ。仲間達の人間性が。
あーあ、冷たいな。このまま沈んでいくのか。こんなに真夜中に人なんているはずないし、目の前に海賊船はあるけれど人が起きている気配はない。
「助けてー……………」
そう言ってみたけど誰かが出てくる気配はない、と思っているともう泳ぐ元気もなくなってきて私は沈んでいく。こんなところで死んじゃうのか。
「おい、誰かいるのか!?」
そう声が聞こえて私は最後の力を振り絞って声をあげて助けを求めた。すると何かが伸びてきた。これは………手?するとその手に腰をグルグルと掴まれて引き寄せられた。
「うわっ、うわああっ!」
なんともない浮遊感に悲鳴をあげる。船の上で頭を打ち、抑えていると月明かりで助けてくれた人の顔がみえた。
「ありがとう、助けてくれて。」
「こんな夜になにしてたんだ?」
「逃げてきたんだ。」
「変な奴だなーお前ー」
「私はなまえ。本当にありがとう。」
お礼を言った瞬間に、ぐぅううううと鳴った目の前の彼のお腹の音は大きい。彼はこの海賊船のなんなんだろうか。戦闘員?
「腹減ったなァ。」
「助けてもらったお礼になにか作ろうか?」
「いいのか!?」
「うん。前の船でコックやってたから。」
「なまえは海賊だったのか?」
「………うん。そう。」
ここは正直に言うことにした。別に隠しても意味はないし。言ったところでなにかされるわけでもなさそうだ。
「キッチンはどこ?」
「こっちだ。」
「ありがとう、えっと……名前は」
「ルフィだ。よろしくな。」
「うん、よろしくルフィ。」
キッチンへと入るとルフィはすぐに電気をつけた。すごく綺麗だし、デザインが可愛い。こんな船だったら私は今頃ここにはいない。コックを続けていただろう。
「冷蔵庫鍵付きなんだけどな、この前やっと番号を知ったんだ。」
そう嬉しそうに話すルフィはカチャカチャと冷蔵庫の鍵を開けている。こんなに手入れの行き届いたキッチンを勝手に使っていいのだろうか。するとカチャッという音がして冷蔵庫の扉が開いた。
「なまえ、頼む!」
またお腹の音を鳴らすルフィは本当にお腹が空いているようだ。食べさせてもらえてないのかな。雑用?
「なにがいい?」
「肉っ!」
「使っていいのかな………」
「なんでも使っていいぞ。」
「そんな、大丈夫?あとで牢屋に入れられたり………」
「うーん、大丈夫だ!蹴られるかもしれねェけど!」
「ええっ!?」
大丈夫大丈夫!そう笑って言うけれど蹴られると聞いたらあまり材料は使わないほうがいいだろう。鳥肉を借りて焼き鳥でもしよう。
「なまえは追い出されたのか?」
串に肉やネギを刺しているときに、ルフィは椅子に座って私に聞いてきた。正直に話そう。ルフィには。
「ううん、私から降りたの。」
「なにかされたのか?」
「なにかされたというか、なにもさせてくれなった。ただ料理を作るだけじゃ海賊の意味もない。まぁ弱い私が悪いんだけど。」
居心地が悪かったといえば嘘になる。まぁ多少汚かった船内だったけれど仲間たちの絆は深かったのだと思う。私を除いては。そんなに心を開いていなかったし、ただ美味しいと言ってくれればそれでよかった。
「戦いたいのか?」
「戦いたいよ。私だけ守られるなんて嫌だもん。だけど弱いから力になれない。そんな自分が嫌で逃げた。」
よし、焼こう。火をつけてゆっくりと焼いていく。その匂いでルフィのお腹の音が大きくなった気がした。
「おれなら、なまえを戦わせる。それで、守る。」
「え?」
「だからさ、おれの仲間になれよ!」
「嬉しいけど、そんなこと勝手に言っていいの?船長の許可とか取らないといけないでしょ?」
肉を焼いている間タレを作る。ああ、いい匂い。目の前のルフィは少し驚いた顔をして否定した。
「おれが船長だ。」
「へールフィが……………ッ、船長!?」
まさか、目の前の彼が船長だったなんて。船長っぽくないと言えば失礼かもしれないけど。見えないものは見えない。
「見えないとか思っただろ。」
「えっ!?」
「なまえ、焦げるぞ!」
「う、わぁっ。危ない。」
すこーしだけ黒くなった肉にタレを絡ませる。うん、美味しそうだ。それにしても作り過ぎたな。
「うまそー!」
「どうぞ、召し上がれ!」
勝手に紅茶も作らせてもらってルフィの目の前に座って飲んだ。船長がいるんだからいいよね。蹴られるとか言われてたけど。
「うめェっ!サンジのと同じくらいうめェっ!」
サンジとはきっとこの船のコックのことだろう。コックいたんだ。いや、そりゃいるよね。なにを期待していたんだろう私。
「それで、仲間になってくれんのか?」
「私弱いし。コックはもういるんでしょ?いらないじゃん。」
少しだけイライラしている私。この船にコックがいたからか、自分の性格の悪さを思い知ってか。たぶん両者だろう。
「コックは多い方がはやいし、なまえが好きなんだよな。」
「はぁ?好き?」
「おう、好きだ。」
「それは……どうゆう………」
数分前にあったばかりの私を好きだなんて、お人好しにもほどがある。というかいつの間にか大量に作った焼き鳥がルフィの胃袋の中に消えていた。あんなに作ったのに。
「仲間になってほしい。そばにいてほしい。」
「それはもしかしなくても………」
恋、のほうだと私は思う。いや、そうしかありえないだろう。でもさっき出会ったばかりなのに。
「なまえが好きなんだよ。」
ドキリと胸が高鳴った。この船に乗ればルフィは私を必要としてくれる。愛してくれる。そう思うと嬉しくて、私は無意識に頷いていた。ついて行こう、目の前の頼りなさそうな船長に。そしてゆっくり好きになっていこう。
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