「おれは別れねェぞ。」
「だから、お互い余裕ができるまで!」
高校三年生の私は大学受験を、ルフィは就職活動を、お互い頑張らなければならない年。どちらも集中するために、距離を置いた方がいいと提案した。そうすれば怒られてしまう。
「なまえには悪いかもしれねェけど、おれは会いたい。」
「終わったら会えるよ?」
「ハァァァ、おれも高3ならなまえと一緒に受験勉強できたのに。」
「頑張って下さい、大学生さん。」
年上とは思えないほど、少し子供っぽいルフィ。たまにはやる男だと思うけど。
「じゃあ、3日に1回な。」
「塾の帰りしか会えないけど、それならいいよ。」
「はやく受験終われー!会社見つかれー!」
内定をまだ取れていないルフィは頑張らなければならない。あと1年で、だ。来年にはどちらも新しい生活を無事スタートできますように。
「今日は一日中、一緒だよな?」
「うん!勉強道具もってきた。」
「えっ。」
「鈴木くんに教えてもらったからできるようになったの。」
「また鈴木か。あー、おれも高3だったらー!」
「何回も聞いたよそれ。」
鈴木くんは大事な私のクラスメイトであり、友達。嫉妬してくれるのは嬉しいけど鈴木くん彼女いるからなんの問題もない。
「電話きてるぞ。」
「え、誰だろう。あ、鈴木くんだ。」
「はっ。」
変な目でこちらを見てくるルフィを無視して電話に出た。もしもし、と言う声はいつもよりなんだか低い気がした。
「どうしたの!?」
彼女と別れた、という報告だった。悲しいんじゃないだろうか、なんて言葉をかけていいのかわからずに、黙ってしまう。『おれさ、好きなやつがいる。』あ、鈴木くんがフったんだ。電話があったからフられたのかと思った。
「応援するよ。大学変えたりしないよね?」
鈴木くんと、その元彼女と私は同じ大学に行く予定だった。これをきっかけに変えてしまうのだろうか。『なまえがいるから変えない。』えっと、それって。まさか。『なまえが好きなんだ。』好きなやつって私だったのか。
「なまえ?どうした?固まって。」
「えっと…………」
どうしようどうしよう。答えには迷っていないけど、これからの関係のことを考えると惜しい。いい友達だったのに、フってしまえばもう元には戻れないと思うから。
「友達じゃ、ダメかな?」
ズルいなぁ、私。こんな私のルフィや鈴木くんはどこが好きなんだろう。そう思うくらいズルい答えを言ってしまった。
「ちょっと待て、告白されてんのか?」
ルフィの問いに頷いて、鈴木くんの返答を待つ。鈴木くんとは友達でいたい。気が合うし、喋りやすいし、一緒にいると楽しいから。『彼氏がいてもいい。彼氏に黙ってでもいいから、おれと付き合って。』そんなこと、できるはずない。そう言おうとした瞬間にルフィに携帯を取られた。
「恋してる暇があったら、勉強しろ!なまえはおれのだ。二度と関わってくんな!」
ああ、もう終わった。鈴木くんとの関係は。でも、なんだかスッキリした。これでよかったんだろう。
「なまえもすぐ断れよ。なにが友達じゃダメかな?だ。」
珍しく怒ってしまったルフィは電話を切って携帯を私に返した。大切な友達を失いたくなかった。
「ごめんなさい。」
「高3だったらよかった!!!」
本日3度目のその言葉に思わず笑ってしまった。鈴木くんには悪いけど、私はルフィしかありえないから。
「ルフィもモテモテなくせにー。」
「おれはなまえしか見てねぇし。」
「私もだよ!」
疑いの目を向けられる。その目に少しながら傷つく。でもそのあと楽しそうに笑うから冗談だってわかった。
「大学、受かったら結婚するか?」
「私が社会人になったらねー。」
驚いた顔と悲しい顔を組み合わせたような、変な顔をするルフィを横目に勉強を始める。
「絶対合格しろよ!?で、はやく結婚しよう。」
「ルフィもはやく、内定もらって来てください。」
不安な年だからこそ、分かち合える何かがあると思う。合格して、大学で勉強して、就職したら結婚しようね。だから待ってて。言わなくても伝わってることを信じて、問題を解いた。
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