「ナイル師団長!失礼します!」
運命の扉を開けると、雷に打たれたような衝撃を受けた。師団長と同期らしい金髪の彼。
「あぁ、なまえか。どうした」
「あ、あの………お名前はっ!」
要件は他に沢山あったはずなのに、私は金髪の彼に話しかけていた。背中を見る限り、調査兵団ということはわかった。
「エルヴィン・スミスだが、何か用かな」
「ちょ、調査兵団の方なんですね!」
「なまえ、要件はなんだ。」
師団長に怒られそうで、本当の要件を伝えた。その間も私の目はエルヴィンさんから離れない。一目惚れって本当にあるんだ。
「なまえと申します!好きです!」
部屋から出る時にそう言えば、師団長は驚いた顔をして、エルヴィンさんは微笑んでくれた。ああ、笑ってくれた。
それから私は出世して、エルヴィンさんに会うために毎日毎日努力した。仕事を本気でしない憲兵団で、出世するのは簡単だった。抜け出して調査兵団本部に行った日には死ぬほど怒られたけど。でも今日もまた憲兵団を抜け出してきた。
「おい。」
さっそく捕まってしまった。確か、人類最強のリヴァイ兵士長と巨人好きで変態のハンジ分隊長だ。全てエルヴィンさん情報だけど。
「また君か〜!懲りないよね!」
「ここから出して!エルヴィンさんに会いに行くんです!」
「許可なく入って許すと思ってんのか。」
「それはそうなんですけど!どうしても会いたくて!!」
目つきの悪いリヴァイさんに睨まれても、エルヴィンさんに会うためならなんだってする。
「どうしてそんなにエルヴィンがいいの?」
「へ?」
「間抜け面しやがって。」
「えっと、理由はありません。ただ好きなんです。」
そう言うとリヴァイさんとハンジさんは驚いたような顔をした。1人は無表情だけど。そんなことどうでもいいから、はやく会いたいんだけど。
「もう出てきてあげなよーエルヴィンー!」
「え!?」
ガチャリと開いた扉から入ってきたのはエルヴィンさんだった。わけが分からず、空いた口が塞がらない。
「ごめんねー、ちょっと疑ってたの君のこと。でも心配いらないみたいだね。」
「チッ、オレは部屋に戻る。」
「私も戻ろーっと!」
リヴァイさんはそのまま、ハンジさんは手を振って部屋から出て行った。どうしよう、エルヴィンさんと二人きりだ。エルヴィンさんはソファに座ると、私にも座るように声をかけてくれた。
「勝手に侵入してすみませんでした!」
「それはいつもの事だろう。今日はどうした?」
「えっと、エルヴィンさんに会いたくて………」
エルヴィンさんは笑った。声を抑えて笑う姿がなんとも愛おしい。本当に好きなんだなと改めて思った。私は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。
「一つ、お願いがあります。」
「なんだい。」
「私を、調査兵団に入れていただきませんか。」
エルヴィンさんは目を大きく開いた。驚くのも無理はない。安全な内地で暮らす今の生活から壁外に行こうなんて馬鹿この世には私くらいしかいないからだ。
「エルヴィンさん、本気なんです。あなたのそばにいたい、あなたに心臓を捧げたい。」
安全な暮らしなんかより、死んでもエルヴィンさんを守りたいと思ってしまったんだ。エルヴィンさんをじっと見つめる。
「なまえは、愛する女を壁外へ行かせたい男がいると思うか?私はそう思わない。人類のためなら、君を捨てかねない。」
「え、あの………え………」
「君を愛するからこそ、壁外から遠ざけたい。」
嬉しすぎて叫びそうになった。そのくらい舞い上がってしまう。エルヴィンさんが、私を好きになってくれた。
「私も好きだからこそ、あなたのそばにいたいのです。エルヴィンさんのために死ねるなら、死も惜しくない。」
君のそういうところに惚れたんだと思うよ、なんて小さく呟くのが聞こえて体が熱くなる。夢じゃないよね、本当だよね。
「頼むから、死なないでくれ。」
エルヴィンさんの匂いがして、抱きしめられていることがわかった。巨人に殺されるなら、今この大好きな人の腕の中で死にたい。
きっとエルヴィンさんは、私の命と人類の希望なら後者を選ぶだろう。それでもいい、エルヴィンさんが生き続けるなら。だから私は全力でエルヴィンさんを守りたい。
「調査兵団への入団を許可する。」
「同じジャケット着れますね!」
「ああ、そうだな。」
今だけは巨人なんか忘れて楽しい時をすごしたい。きっとエルヴィンさんの頭は巨人のことしかないだろうけど、視界に私を入れてくれるならそれでいい。
「変わった愛、なんでしょうかね。」
「この時代に生まれれば必然とそうなっただろう。」
「それもそうですね!」
エルヴィンさんと微笑み合うこんな時間がずっと続けばいいのに、なんて無理な話だ。次の壁外調査で死ぬかもしれない。それでも希望をもってしまうのは人間のいいところだと思う。とりあえず、エルヴィンさんが生きてればそれでいいんだ。
back