「今日、飲みに行かない?」
「いいわねー!」

会社の帰り、溜まりに溜まったストレスを少しでも発散しようと同僚のナミと共に居酒屋に入る。オシャレなお店でワインでもいいけど、やっぱり居酒屋のビールがいい。そう思ってるのはナミも一緒で、今日も生ビールを注文した。

「そろそろ結婚してあんな会社とおさらばしたい。」
「この前入った新人の……誰だっけ。」
「あ、ルフィ?」
「そう、あんたに懐いてたじゃない。」
「年下かァ……うーん。」

先日入った新人のルフィは一言で言えば自分勝手。でも、怒られても負けずに頑張っているようで、社長になりたいらしい。まぁ、そこは応援してるけど、恋愛感情としては考えたこともなかった。

「ナミはどうなのよ、順調なの?」
「あー、おかげさまで順調よ。」
「いいなァ。何年目?」
「来月で3年目ね。」
「そろそろ結婚してもいいんじゃない?」

そう言えば、ナミはビールを飲み切って小さくため息をついた。

「主婦になりたくないのよね。家事して待つのもいいけど、仕事もやりたいし。」
「家庭に入った方が楽チンじゃない?」
「子供ができたりしたら大変でしょ?」

ナミは大人だな、と思う。先の先まで見てるし、いつでも最良の選択をする。ナミは憧れでもあるし、大切な友達で、頼れる同僚なんだ。

「家族がほしい。」
「まずは彼氏をつくりなさい。」

ごもっともすぎて言葉が出ない。彼氏かーできるといいなーなんて悠長なこと言ってる場合じゃない歳だってことはわかってる。ビールを一気に呑んで、顔を下げるとそこには例の新人の顔があった。

「ルッ!?ゴホッ……ゴホッゴッ!」
「大丈夫か?」
「な、なにしてんのよ!」
「友達と来てたらなまえの姿が見えたから」
「敬語を使えってあれほど………」

言葉の途中で隣のナミがニヤニヤ笑っているのが見えた。なんだか恥ずかしくなって、顔が熱くなる。

「仲が良いのねー?」
「誰だ?」
「あんたの上司よ、名前はナミ。」
「おれはルフィ」

自己紹介をしている二人を横目に、また生ビールを注文した。するとルフィは私の隣に座ってきて、何事かと目を見開く。

「なにしてんの!?友達は!?」
「あいつ等はいいんだ。」
「まぁ、いいじゃない。ルフィは恋人いるの?」

ナミは確実に楽しんでる。酔いのせいかもうどうでも良くなってる私がいるからナミとルフィは放って、焼き鳥の串を持った。

「いねェ。」
「付き合いたい人がいるとか?」
「それは、いる。」
「いるのね……」

そんな二人の会話を聞きながら、もう一杯ビールを注文した。好きな女な子のタイプだとか、その子のどこが好きなのだとか、そんな会話の内容はもう耳に入ってきていない。ただひたすらビールを飲んでいた。

「ちょっと、なまえ、飲み過ぎじゃない?」
「え?そんなことないよー。」
「あー、駄目だ。ルフィ、送ってあげたら?」
「なまえ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!もっと飲もうよ!」
「大丈夫じゃねェだろ。」

ルフィに手を取られて無理矢理立たされる。頭がグラングラン揺れて、足がうまく動かない。

「明日お金返しなさいよー!ルフィ、なまえをよろしくね。」
「おう」

店から出て、ルフィに肩を抱かれながら歩く。ふわふわというより、ゆらゆらしている気分だった。

「家族がほしいなんて馬鹿みたいだよねー。彼氏もいないのにー、ははっ。」
「じゃあ、おれにしろよ。なまえの家族になって社長になって、一生幸せにしてやる。」
「ははっ、嬉しいなー。そんな人が現れるといいんだけどね。」
「おれがなまえに言ってんだよ。」
「だって好きな人いるんでしょー?」

だからそれがなまえなんだって、そう言いながらルフィが立ち止まるから私も立ち止まってルフィをみる。顔が赤いのは酔ってるのか、あの言葉が本当だからか。酔ってる私には判断できなかった。

「やっぱいい、なまえが酔ってない時に言う。」

怒ったのか、スタスタと歩いていくルフィを慌てて追いかけて隣を歩く。カバンに入った水を取り出して一息ついた。ルフィが彼氏になったら、楽しいだろうなと考えながら彼を見上げる。

「なんで………私なの?」
「どうせ明日になったら忘れるんだろ?」
「あんたねぇ、上司に向かってその口はどうかと思うんだけど。」
「将来嫁にするからそんなのいいんだよ。」
「付き合ってもないし、どこからそんな自信がわくわけ?」
「うーん、好きだから。」
「酔ってるでしょ。」

ゆっくりとした足どりで歩くのはもっとルフィといたいからか、それともただ足どりがおぼつかないからか。それはわからない。

「酔ってるのはなまえだろ?」
「酔ってるのかな、わからない。」
「忘れんなよ?おれはなまえが好きだからな。」
「はいはい、覚えておきますよ。」

体が熱い原因はわからないけど、忘れることなんてできないと思う。だからルフィも忘れないでほしい。

「また明日、告白してくれたらOKしてあげる。」
「それって!!」
「だから忘れないでよね!」
「わ、忘れねェ!」
「おやすみ、また明日。」
「おう、おやすみ。」

ルフィは私が見えなくなるまで手を振ってくれた。こんなにも、愛されるのは初めてで恥らしい。でも、嫌なんかじゃなくてむしろ嬉しい。だから幸せにしてよね、ルフィ。

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -