「なっ!?頼むって!」
私の目の前で、手を合わせて見つめてくるのは、大学の同級生のエース。その真っ黒な瞳から見つめられると、断れなくなるから嫌だ。
「………、……なんで私なの。」
「なまえがひとり暮らしだから。」
わいわいと賑わう、日曜日のファミリーレストラン。私はそっぽ向いて目の前のオレンジジュースをずずずっと飲んだ。
「たったの一週間だけだ、頼む!」
こんな暑い日にファミレスに呼び出されて、頼まれたことはとんでもない我儘なお願いだった。
――――おれの弟を一週間だけ預かってくれ。
エースとエースの弟は二人で暮らしているらしく、エースが一週間彼女と海外やらに行くらしい。まったく、信じられない。一応こんな私でも女だ、ひとり暮らしの女の子と高校生の男の子がふたりで暮らすなんて……、本当に信じられない。
「なんでも言うこと聞くから……、頼むって。」
「………、…なんでも?」
ニヤリと笑ってみせると、エースはうっとたじろいだ。
「で、できる限りのことは。」
「もう……、…わかった。一週間だけだからね」
そう言った瞬間、ぎゅっと両手で私の手が掴まれた。
「本当にありがとな!なまえ!!お前は心の友だ!!」
「………、……呆れた。いつもそんなこと言わないくせに。」
「名前はルフィだ。大食いだから、よろしくな!」
ルフィくん、か。うん、大食いなのはエースの弟ってことで想像はつく。
「じゃ、おれは行くな!!」
「ええ!?もう!?」
「わりィな!」
エースは私のジュース代を置いて、早々とファミレスから出て行った。
「…………はぁ。」
自然と漏れるため息は、わいわいと騒いでいるお客達の声で遮られた。
暑い暑い長い真夏のたった一週間の出来事の始まりだった。
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