「ん、あっ…ぁぁっ」

「う…、あっ…!」





情事が終わったら、タバコを吸ってシャワーを浴びて、さっさと帰る。これがあたし達の関係。そこには愛なんて存在しない。


「名前」


今日もいつものように足早にホテルの部屋を出ようとしたその時、彼に呼び止められた。


「何?」


珍しい、彼があたしを引き止めるなんて。というか、初めてかもしれない。


「もう帰るん?」

「へ?」


ついつい間抜けな声が出てしまった。あれ、だっていつもこうでしょ?あたし達の間に愛だとか情だとか存在しない、はず。体だけを求め合って、終わればただの他人に戻る。


「何やその間抜けな声は。明日休みやろ?今日は泊まろうや。」

「え、でも…」


あたし達そんな関係じゃないよね?言おうとしたけど、やめた。


「…嫌なん?」


ううん、嫌なわけない。あたしは返事の代わりに靴を脱いでベッドに座った。

…でもどうしよう、二人でゆっくりなんてした事ないから変に緊張する。気まずいからとりあえずテレビをつけてまたタバコを吸う。


「あっ…」


適当にチャンネルを回してたらアダルトチャンネルになってしまった。そうだ、ラブホテルなんだからこういうチャンネルがあって当たり前なんだ。やばい、気まずい。チャンネルを変えようとしたその時だった。


「ちょっ…」

「変えなくてええやん、このまま見ようや」


あろうことか、それは彼の手によって制されてしまった。


「アカン。勃ってきたわ。名前、も一回シよ?」


後ろからあたしを抱きしめて耳元で囁く彼。嫌、そんな事されたら断れなくなる。お尻に当たる彼のぺニスにも、少しだけ興奮を煽られた。


「ん…っ、ねぇ、今日どうしたの…?」


彼にしては珍しく優しい愛撫。いつもは欲望剥き出しで激しくしてくるのに。


「名前、ここグチョグチョやで」

「あ、んっ…!」

「気持ちええ?」

「ん、…きもちっ…い」


中から指を抜くと、先ほどまでとは明らかに質量の違うものが入ってきた。さっき入れたばかりとは言え、彼の大きいものを受け入れるのにはまだ少し慣れない。


「さっきヤったばっかとは思えへん…、めっちゃ締まるで…っ」

「あっ、んん、そこ、やぁっ…」

「ココ好きやろ?いっぱい突いたるから」


私を抱きしめながら激しく揺さぶる彼。こんなセックス、知らない。挿入しながらする甘くて深いキスも、首筋の至る所に印をつけられるのも。全部、彼とは初めての事だった。


「んっ、あっん…、ひ、あ…!」

「名前、名前…」

「…え、?」

「名前…呼んでや…」


あたしは彼の発言に驚いた。彼には名前を呼ばれることはあるけど、あたしは彼の名前を呼んだ事がなかったから。

彼氏でもない人の名前を呼ぶなんて出来なかった。ましてや、体だけの関係の人のなんて。でも今日のあたしはおかしい。この雰囲気に完璧に飲み込まれてしまった。


「…の、すけ」

「聞こえへん」

「くら、のすけ…っ」

「もっとや、名前」

「蔵ノ介…」

「もっと、もっと」

「蔵ノ介、蔵ノ介っ…!」


きっと恋人同士だったらこんな風にお互いの名前を呼び合って、激しく愛し合うんだろう。でも私達は偽物だ。今は偽りの愛で形だけの愛を演じてる。

でも何でだろう。彼の、蔵ノ介の悲しそうな顔が胸に焼き付いて離れない。彼は悲しそうな顔であたしの名前を呼んでもっともっと、と名前を呼ぶのをせがむ。まるで子供みたいだった。でもあたしはそれを嫌だとは微塵にも思わなかった、むしろ蔵ノ介に僅かながら愛しささえ感じた。


「あ、ぁっ、蔵ノ介…っ」

「…!あ、かんっ、出てまうっ…!」


あたしを抱きしめる彼に、思いきり抱き着いた。すると彼の律動が更に激しくなった。

ぐちゅぐちゅと粘着質な音とお互いの吐息が部屋に響き渡る。それらの音が耳に入って、また私達を官能的な気分にさせた。


「名前…、」

「んっ、ぁ、何…っ?」

「お前は俺のモンや。誰にも渡さへん…っ」

「え…っ?」

「好きや…、名前…」


恋愛感情なんてない。あたしがこの人を好きになるなんて有り得ないはずなのに…。

夢を見ているようだった。ふわふわとする意識の中で、ただただあたしを好きだという彼に不覚にも少しときめいた。


「あ、たしも…っ」


蔵ノ介が、好き。


「ほんまに…?」

「うん…好き、蔵ノ介…!」

彼に初めて自分からキスをした。

少しして彼があたしの舌を絡めてきて、律動を再開する。もう限界が近くなって頭がおかしくなりそう。


「あ、んっ、いぁっ…!く、らのすけぇ…っ」

「名前、名前、好きやっ…!う、あっ…」

「ひぁ、ぁっ…」


初めて彼の精液を直接中で感じて、あたしは幸せな気持ちにさえなった。





まだお互い何も身につけずにベッドの上で抱き合っていた。凄く心地好かった。蔵ノ介ってこんなに温かかったんだ…


「何考えるん?」

「蔵ノ介ってあったかいなーって思って」

「はは、何やそれ。」


蔵ノ介があたしにキスをした。本当に恋人みたいな、甘いキス。


「…も一回ちゃんと言わなアカンな。名前、好きや。俺と付き合うてくれ」

「蔵ノ介…」

「俺はセフレなんて思ってなかったで。最初から好きやったから。…なぁ、返事は?」


あたしも、彼の唇にキスをした。


「あたしも好き。蔵ノ介が好き。」





20110128



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