小説 | ナノ
【みんなにはナイショだよ】
「なまえおねえちゃん、何してんのー?」
「あ、トゥーン。あれ?扉の前にロボットいなかった?」
「え、いなかったよ」
「あれーおかしいなぁ。見張り頼んでたのに…」
ジュースを取りにキッチンに入ったら、そこにはなまえおねえちゃんがいた。しかもキッチン中には甘い匂いが漂っている。
「燃料取りに行ったのかな…」
「んー、どうなんだろ?ていうかいい匂い!何作ってるの?」
「うーん…まぁ、トゥーンだけになら教えてもいいかな」
「なになに?」
テーブルの上を見たら、そこにはたくさんのお菓子。クッキー、マカロン、カヌレ、マフィン…どれもすっごく美味しそう!
「うわぁ、すごいすごい!お菓子がいっぱい!」
「ふふっ、明日はハロウィンだからね。みんなに配るんだよ」
「オイラももらえるの?」
「もちろん。ピーチたちが衣装の準備とか張り切ってるんだから」
そう言えば、最近この屋敷の中はカボチャだらけだったな。イベント事やパーティーが好きな姫らしいや。
「トゥーンの仮装は何かなぁ。私まだ知らないんだよね、楽しみー」
「なまえおねえちゃんは仮装しないの?」
「どうだろう?ピーチが用意してるならするんだろうけど…。私はお菓子作り担当なんだ」
そう言って頭を優しく撫でてくれるなまえおねえちゃんが大好き。なまえおねえちゃんはファイターの中で一番料理が上手いんだ。
おねえちゃんの仮装も見たいなぁ、絶対かわいいと思うのに。あ、でも兄ちゃんたちが騒いで大変そう…。
「あー、明日が楽しみ!早くお菓子食べたいなぁ」
「そうねぇ…」
いい匂いがするお菓子を前に素直な気持ちを口にしたら、なまえおねえちゃんは少し考える動作をした後に笑顔になって…。
「味見用に多く作ってあるから、食べてもいいよ」
「え、ほんと?!」
「うん。みんなにはナイショだよ?」
「オイラとなまえおねえちゃんだけのヒミツだね!」
冒険してた時に聞いたことがあるセリフ。ナイショとかヒミツって、共有できるとなんだか嬉しい。
小さなお皿に取り分けてくれたお菓子は、いつもおねえちゃんが作ってくれるのよりも美味しく感じた。
「とっても美味しいよ!」
「そんなに急いで食べなくていいのに。ほら、口のまわりにチョコがついてるわよ」
取り出したハンカチで口のまわりを拭ってもらう。ちょっと照れくさくなって笑うと、おねえちゃんもニコニコ笑う。
なんか、こういうことされるとオイラはまだ子どもなんだなぁ、って思う。オイラはなまえおねえちゃんのことが好きだけど、男としては見てもらえてないんだろうな…。
「あ、焼けたみたい」
「なになに?」
「パンプキンタルトだよー。うん、いい感じ」
丁度オーブンから音がして、なまえおねえちゃんは立ち上がって中を覗いている。
ほんとに料理上手だなぁ。おねえちゃんみたいな人がお嫁さんだったら、美味しい料理が毎日食べれるんだよね。
「いいなぁ…」
「これも明日になったらみんなに配るから大丈夫よ」
「そ、そうだよね!」
思わずこぼしてしまった声は、なまえおねえちゃんには正しく伝わらなかった。慌てて笑って、いつも通りの声を出す。
オイラが大人だったら、なまえおねえちゃんに好きって言ってもはぐらかされないのに。少しだけ、寂しい気持ちになる。
だって、オイラの気持ちは本物だから。
「…だから、いつか気づいてね」
「ん?トゥーンどうしたの?」
「なぁーんでもない!」
「変なの」
今はまだ子どものままでかまわないけどさ。好きって言葉が似合う男になったら、オイラだけに特別な笑顔を見せてね。
みんなにはナイショだよ。
胸の中で、その言葉がとても温かく響いた。
13.10.27
アンケート1位ゼルダ組より
トップバッターはトゥーンだ!
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