小説 | ナノ



【刹那の花を咲かせよう】
※ヒロインは子どもファイター設定


「ねえねえ、オリマー」
「…なまえか、どうした?」
「これ、なあに?」
乱闘が終わって寛いでいたところに、なまえがやってきた。前に出されたその手に握られているものを覗き込むと…。

「…これは、線香花火だな」
「ん?なにそれ?」
「…簡単に言うと、威力を物凄く弱めたクラッカーランチャーだ」
包装されたままの線香花火。ここにきてそんなものを見た記憶はないので、恐らく去年のものだろう。
私なりにわかりやすく言ったつもりだったが、なまえにはいまいち伝わっていないのか、首を傾げてジッとそれを見詰めている。

「…やってみるか?」
「え、ほんと?」
「子ども一人だと危ないが、私が一緒なら問題ないだろう」
「やったー!」
手放しで喜ぶなまえをつれて、屋敷の中庭へ向かう。一応コップに水を入れて用意し、マッチと蝋燭も持ってきた。
わくわくと目を輝かせているなまえの周りには赤ピクミン。他の色は、火がついたら大変だからな…。

「…火傷でもしたら大変だ。これを貸そう」
「ありがと!」
グローブを片方外して手渡す。耐火性能もあるから、これで火傷の心配はないだろう。

「…ここに火を点けて」
「あ、すごいすごい!丸くなった!」
「手を動かすと火種が落ちてしまう。じっとしているといいぞ」
火薬の包まれている部分が丸くなり、パチパチと音を立てて火花を散らす。湿気っていないかと心配だったが、何とか大丈夫なようだ。
段々と暗くなってくる中、なまえの顔が優しい光で照らされている。

「きれー…」
「…そうだな」
「あ!落ちちゃった…」
「最後までもたせるのは、なかなか難しいぞ」
まぁ、たくさんあるからな。そう言って新しいものを渡したら、「オリマーもやろ!」と言われたので、私も一つ蝋燭で火を点けた。
パチパチと爆ぜる線香花火はなんだか叙情的で、不意に頭には昔聞いた話が甦った。

「…そういえば、線香花火を最後まで落とさずにいると、願いが叶うと聞いたことがあるな」
「え、ほんと?あー、また落ちちゃった…!」
「…まぁ、まじないのようなものだろうがな」
「頑張って最後までやろう!」
周りで赤ピクミンが遊び始める中、なまえがマジメな顔つきになる。子どもの集中力には、大人でも舌を巻くものがあるな…。

それからなまえは頑張って線香花火を長持ちさせようとしていたみたいだが、なかなか上手くいかないようだ。一つ火種が落ちるごとに、残念そうな声を出してはまたチャレンジ。そんな時間が続いた。

「うーん…難しいなぁ…」
「…止まっているつもりでも、体は少し動いてしまうからな」
「ねえオリマー、あたしの手おさえてて!」
今しがたジュ…と火種を落としてしまった私にそんな頼みごとをするなまえ。私は頷いて、グローブが残っている方の手をなまえの手に重ねた。

「いくよ…!」
真剣な表情で、蝋燭から火が移る。光る先端が丸くなり、ジリジリと火薬が燃える音がした。私も、思い思いに遊んでいたピクミンも、いつの間にか固唾を飲んでその火花を見詰めていた。

バチバチ…バチ…

段々と大きくなる火花。本当に花のようだったそれが、少しずつ、少しずつ、小さくなって…光の線のように儚げなものになった。
そして…音もなく、最後の命を燃やし尽くした線香花火は、辺りに暗闇をもたらしたのだ。

「やった!これで終わり?」
「…そうだな。凄いじゃないか」
「嬉しい!」
やっと満面の笑みに戻ったなまえを見て、ピクミンも嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。がらにもなく少し緊張してしまっていた手を離して、なまえの頭を撫でた。

「…ところで、どんな願いごとをしていたんだ?」
「気になる?あのね…」
ヒソヒソと耳元で囁かれたなまえの言葉。それを聞いて、私はさぞかし目を丸くしていたことだろう。
照れたように笑うなまえは、また新しく線香花火に火を点けて遊び始めた。

…まったく。この子には敵わないな…。

『オリマーが、あたしのお父さんになってくれますように』




13.09.14
「若者の至り」の偽物様に捧げます
相互リンク感謝です!


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