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【愛しのナイトメアイーター】
※ヒロインはファイター設定


眠れない。
どうしても。

「……んー…」
ベッドに入ってもう何時間経ったんだろう。起き上がって時計を見たら、日付はとっくに変わってしまっていた。
大きな溜め息を一つ。
今日(といっても、もう正確には昨日なわけだけど)は乱闘にもたくさん参加したし、特に具合が悪いわけでもない。体は疲れていてだるいのに、どうしても眠れない。心が、眠ることを拒んでいる。
明日はチームで乱闘するから、万全な体調で臨みたい。一緒に組んでくれるリンクに迷惑かけられないもの。

なのに…
眠ろう眠ろうと思えば思うだけ、思考は研ぎ澄まされて。何度寝返りを打ってもそれが鈍ることはなかった。
段々と焦りが沸き起こり、息が詰まる。ここ数日ずっとこんな調子。

「ちょっと散歩してこようかな…」
誰に伝えるわけでもなくそう呟いて、寝間着の上に大きなショールを掛けて部屋を出た。
屋敷は昼間とは打って変わって静まり返っている。誰の姿も見えない。なんだか別な世界にいるみたい。


長い廊下を抜けて扉を開ければ、そこは中庭。
季節に合わせた花々と、噴水。植物が好きな私は昼間も時間があればここにいる。何より、ここから見上げる空がとても綺麗だから。

「満月かぁ」
雲一つない夜空に大きな丸い月。その明るさに押されてか、星はあまり見えない。夜特有の澄んだ空気と、静かに温度なく降り注ぐ月光。ゾクリとするほど、美しい。


「なまえ…?」
「―――っ!!」
時間を忘れて空を見上げていたら、不意に後ろから声をかけられた。誰か他の人がくるなんて思ってもいなかった私は、凄く驚いてしまった。

振り返ると、ピンク。
「――…カービィ」
「ごめんね、ビックリしちゃった?」
こんな時間に会うことはまずないような人に会って、更に驚く。トテトテこちらに歩いてくるカービィは、ここの住人の中でも一二を争うほどに早寝の子だから。

「珍しいのね、こんな時間に起きてるなんて」
「んーとね、お腹の音で目が覚めちゃったの」
えへへ、と笑うカービィ。きっとキッチンで何か食べてたんだろうな。明日誰かに怒られないといいけど。
ポヨンと音を立てて私の隣に座った彼は、こちらを見上げて声を出す。

「なまえは、何してたの?」
「空を見てたのよ」
「眠れないの?」
「――…っ。うん…」
子どもってたまに凄く敏感だと思う。私はあまり顔には出ないタイプだけど、あっという間に見破られてしまった。否定するのもなんだか変な気がしたから、小さく呟く。

「最近ね、ずっと怖い夢ばかり見るんだ…」
「こわい夢?どんなの?」
「覚えてないの、怖いってことしか…。だから、余計に怖くて…」
私の心が眠りを拒む理由。毎日決まって見る悪夢。内容は覚えていないのに、悲鳴を上げて起きたら泣いている。そんなことが数日続いている。
隣に目をやれば、カービィは心配そうな顔をして私を見上げていた。「ごめんね、心配させちゃって」そう言って笑いたいのに、そんな余裕もない。

すると、突然カービィが私の膝に乗ってギュッと抱きついてきた。
「…カービィ?」
「なまえ、僕が一緒に寝るよ」
「え?」
急な申し出の意味がわからず困惑する私に、彼はにっこり笑いかけた。その笑顔は太陽みたいで、何だか心が温かくなるような。

「なまえを困らせる悪い夢なんて、僕が全部すいこんで食べてあげる!」
「……――」
だから、大丈夫だよ。
そう言ってまた笑うカービィを、私は抱き締め返す。なんだろう、この子が言うと本当に大丈夫な気がする。

小さな体で世界を救ったヒーローにとっては、私の悪夢なんか敵じゃないみたい。

「…ありがとうカービィ」
「なまえ大好き!だから、僕が守ってあげるね!」
「うん」
ピンクの体に頬擦りしたら、睡魔がそっと囁きかける声を聞いた気がした。

その日を境に、私の悪夢は姿を消した。




13.08.08
カービィをポヨポヨしたい←



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