1つの“輪”を君に捧ぐ
ラケットのスイング音に、ボールの跳ねる音。
部活動中の青春学園テニス部のコートに於いて…
ブチン!
ブワサァッ!
『わっ!?』
テニスコートには到底似つかわしくない音が突然響いた。
ありえない…もちろん、日常生活でだってあまり考えられない音。
女子マネージャーであるなまえの髪ゴムが、何の前触れもなしに、切れたのだ。
突然のことに、タオルのカゴを持とうと下を向いて少し屈んだ状態のまま暫く硬直していたなまえだったが、手塚の「5分休憩!」という声にはッと我に返り、顔をあげる。
そこにタオルを貰おうと、桃城と越前がやってきた。
「なまえ先輩、髪下ろしてるの新鮮ッスね!」
「前の方に髪がきてたのは、結構ホラーでした」
『桃はともかく、越前くんヒドイ!』
カゴを持ち上げるのをやめ、桃城と越前それぞれにタオルを差し出す。
「切れた髪ゴムとか、初めて見た…」
『私もだよ…』
越前は切れた髪ゴムをひろう。
それをまじまじと見た後、タオルと引き換えに渡す。
「先輩、何か願い事は叶いましたか?」
『いや、ミサンガじゃないからね』
髪ゴムさん、ご臨終です…といいながら、とりあえず切れてしまった髪ゴムを、ジャージのポケットに入れる。
そのままポケットを探るが、あいにく、新しい髪ゴムは入っていなかった。
なまえは鞄の中身を思い浮かべる。確か、ヘアピン等を入れるポーチはあったはず。だが、問題なのは…
『予備の髪ゴム、あったかな…』
「これ使って」
『え?』
ポーチの中に入ってない気がする…と思案しているところに響く声。振り返ると、意外と近い所に不二が立っていた。
彼の手にある物を見たなまえは、天の助け!とも、形がシュシュみたいだなとも思う。
腕を伸ばす不二に、手を出して髪ゴムを受け取ろうとするが…なまえの横を、不二の手が通過する。
そして不二はそのまま抱きしめるような姿で、前から両手の手ぐしでなまえの髪を一つにまとめ始めた。
『ちょ、ちょっと、不二く、!?』
「少しジッとしててね」
結びづらいから。
耳元にかかる不二の吐息のような囁きと、後頭部や首筋にある不二の手に、心臓が早鐘を打つ。
ジッとしてと言われているのもあるだろうが、なまえはパニックで固まる。
しっかり結べたらしい不二の「よし」という声にさえ、肩がビクッと反応する。
『あ、りが、とう…部活終わったら、ちゃんと返す、ね』
「いいよ。なまえのために買ったんだから、あげる」
『え、』
「だから、大切に使って」
『あ、う、うん…わかった』
戸惑いつつも頷いたなまえに、不二は満足気にクスッと笑うと、再開された練習に戻っていった。
今度は、どんな“輪”をキミにあげようか…
もちろんそんな不二の企みに、なまえは気付けないでいるのだった。
End
→おまけ
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恋人じゃないけど、おせおせな不二。
不二なら前からでも器用に髪まとめてくれそう←
“輪”は、独占欲の現れでしょう、きっと←
次のページに、ちょっとしたオマケ(笑)
2015.8.6
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[ mokuji]
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