きみに"俺"を教えてあげる
真琴Side
今日は部活も無く、俺の部屋で寛ぐことになった。
だからなまえがクッションを抱えて座っていることには、何ら疑問はない。けれど、どうもその表情が冴えない。
何か考えているのか、いつもなら他愛ない会話をするのに、それすらも無いなんて…
麦茶を入れたコップを机に置く。
カランッと氷の音が響くと、なまえの肩がピクリと微かに反応した。
『……ねぇ、真琴』
「ん?何?」
『……』
「?」
漸く話し始めたかと思いきや、再びの沈黙。
とりあえず、話したくなるまで待とうと、麦茶を口に含んだ。
『真琴は私とイチャイチャしたい?』
「ぶっふぅ!?!?」
…のは間違いだった。
「っけほっ…いきなり、ど、どうしたの、なまえ?」
『……それが、今日ね…』
意を決したような表情で、なまえはポツリポツリと話し始めた。
***
それは休み時間のこと。
屋上へ向かう前に寄った購買部で、なまえは後輩兼幼馴染みの渚とばったり会った。
ーー「ねぇ、なまえちゃん」
ーー『何、渚?』
ーー「なまえちゃんは、マコちゃんと付き合ってるんだよね?」
ーー『うん、そうだよ』
ーー「その割りにはさ…付き合う前と変わらないよね?」
ーー『変にベタベタするのもね』
ーー「えぇー!もっとイチャイチャしたらいいのに!」
ーー『えぇ…』
ーー「それに、マコちゃん絶対に我慢してるよ?」
ーー『う、(我慢?)』
ーー「あーあ、マコちゃん可哀相…折角幼馴染み以上の関係になれたのにね」
ーー『うぅ、(真琴の期待を裏切ってる…てこと?)』
ーー「その内、なまえちゃんに愛想尽かして、別の女の子に甘えたり、なまえちゃんの知らないマコちゃんを見せてたり…」
ーー『ふぇえ(結果嫌われる!?)』
ーー「(…ってことは、あり得ないだろうけど、教えてあーげない☆)」
***
『……って、渚が』
「……」
頭を抱えたくなるくらい痛くなった…いや、抱えたけども。
渚も何てことを吹き込んでるんだよ。
イチャイチャ…
確かにしたい。
別の女の子に見向きするはず無いのに…それにショックを受けたってことは、嫉妬してくれたってことで…今すぐにこの可愛い子を抱き締めて、甘やかしてやりたい!
したい、けど…
俯いたままぐるぐると止まることの無い思考は、視界の隅で動いた気配があったために、ストップした。動いた本人、なまえへ視線を向けると、腕を広げて、何やらスタンバイしているかのような姿で静止していた。
「なまえ?」
『さぁ、ギュッと抱き付いて甘えてくるがいい』
「へっ?」
何で上から目線…
とは思ったけれど、耳が真っ赤になっているなまえに納得した。
いつも程良い距離感を保とうとする彼女。もちろん、わざと距離を開けようとかではなく、無意識に気持ちのよい距離感を作れるのが、なまえという人間なのだ。
そのせいか、少し馴れ馴れしい人…コミュ力高い人を前にすると、過剰に距離を取ろうとしたり、たとえ仲の良い相手であろうとむやみやたらに触れたりはしない。
女子同士の特有なあのくっつき方とか、している所を見たことが無い。
そんな彼女に“恋人らしい触れ合い”をしようものならどうなるのか…
当然、自分から、なんて性格ではない。だからあえて、上から目線…相手から動くようにしているわけで…
『なんて、冗談…』
暫く思考の渦の中で固まっていたせいで、不安を煽られたらしいなまえの両腕が、ゆっくり下に下がり始めた。
…いや、そこまできて許すはずがないよね?
その両腕が降りきる前に、手を挟みいれる。
『ふぇ!?』
そのまま手を背中に回して、なまえの肩口に顔をうずめる。
『やだ真琴、くすぐったい…離れて!』
「甘えていいっていったのは、なまえだよ?」
『ちが…あれは冗談で!』
「冗談で言ったんだ…」
『ま、真琴?』
「……」
『あの…えっと、その…』
突然くっついて、耳元で囁いたせいか、耳をさらに赤くして慌てたなまえ。
俺だって男なわけでして…ちょっと意地悪してみたくなるんだ。
まるでいじけているみたいに黙りを決め込むと、別の意味で慌て出すなまえは、本当にどうしてこんなにも可愛いのか。
いつもなら、“ごめん、俺の方こそ冗談だよ”とか言って離れるんだけど…やっぱり今回ばかりは、ダーメ。
「俺を期待させといて冗談だなんて…お仕置きが必要だね」
『お、お仕置き?って、なっ!?』
背中に回していた左手を、なまえの右頬まで撫でるようにもってきて固定。
驚きて固まるなまえにはお構いなしに、あいている左頬にキスを落とす。
もちろん、わざとリップ音を響かせることを忘れずに。
『ま、まこぉ…』
ああもう、本当に…
「カワイイなぁ…」
『っ、可愛くなんか…!』
おっと、つい本音がこぼれてしまった。
本当は渚の言うみたいにイチャイチャしたいけど…
そんなことしたら、このカワイイ幼馴染みはどうなってしまうのか……。
「ゆっくりでいいよ」
『真琴…』
「なまえのペースでいいから…無理してイチャイチャしようとかしなくても、大丈夫…俺はちゃんとなまえを待つからね」
『っ、うん!』
焦る必要なんて無いんだ。
ゆっくり時間をかけて…
きみに"俺"を教えてあげる
((別の女の子に見せるものなんて、無いからね))
(でも、あんまりゆっくり過ぎると、俺が襲っちゃうから)
(お、襲っ!?…ど、努力します!)
(じゃあまずは手始めに膝枕からお願いしようかな)
(ひ、膝まくっ…!)
((照れてる…可愛い))
End
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タイトルは「確かに恋だった」様よりお借りしました。
亜莉栖様からの「甘えた可愛い系の真琴夢が見たい」というコメントを目指した結果…全くの別物に。私の書く真琴は狼化しやすいようです←
2016.1.27
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[ mokuji]
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