03
「ぐあぁ」
『ひゃあっ!?』
食べられる!とギュッと目を固く瞑った次の瞬間、頬をなんとも形容し難い触感と生温かさが襲う。
な・め・ら・れ・た!
何にかって?
奥さん、聞いてくださる?
怪獣よ!怪獣!
え、やーね、いくらなんでもゴジ●じゃないわよ〜
あんなのに舐められるって、一体どんな状きょ「自分を見失ってんな」
声と共にやってきた側頭部への衝撃で見失いかけてた(もはや見失っていた)自分を取り戻したなまえ。
しばらく呆然としたのは、もちろん不可抗力だ。
「『奥さん』とか言う年でもないだろ」
『いや、最近の子に言わせれば、私なんかおばさ……んん?』
「全然若いじゃねーか」
『あ、りがと…う?』
私なんかの年より、キミの年が気になる…
何故なら、今偉そうに話すこの人は、ビシッと黒いスーツを着こなしてはいるが、どう見ても赤ちゃんなのだ。
うん、やんごとない赤ちゃん。
『えっと…?』
「ちゃおっス」
『ちゃ、ちゃお…』
黒スーツの赤ちゃんは、ボルサリーノのつばを抑えながらヒラリとベッドに飛び乗ると、黄緑色のドライヤーをどこからか取り出し、なまえの上に鎮座する緑色の怪獣に向けた。
「やっぱしお前だったか、エンツィオ」
「くぁあ」
ブォオ…とドライヤーの音が大きくなるにつれ、どんどん小さくなっていくエンツィオと呼ばれたそれ。
気付くと、膝上にちょこんと乗るサイズになったわけで。
『え…なにこれ…』
「こいつはエンツィオっつてな。水を吸うとふやけて膨張するんだ」
『へ…へぇ…』
自分の膝上にいるカメをまじまじと見つめる。
これは怪獣ではなく、カメだということに安心するものの、赤ちゃんの話したことが理解しきれない。
水を吸った分だけ大きくなり、乾かせば、元のサイズに戻るーーそんなスポンジのようなカメがいてもいいのだろうか…。
浮かんでくる疑念を押し込み、なまえは周りを見渡してみる。
自分のいるベッド。机に椅子。
机の上には、倒れたコップが。そのせいか、床は水浸し…というより、少し濡れていた。
「(原因はこれか…)」
『ねぇ』
床を忌々しそうに見つめる赤ちゃんに、なまえは声をかける。
『キミは誰で、ここは一体…』
溢れ出そうになった疑問を、赤ちゃんの手によって制される。
「まぁ落ち着け、みょうじなまえ」
『な、んで…私の名前……』
咄嗟に身構える。そんななまえの行動には気にした風もなく、赤ちゃんはなまえに手を伸ばすと、そのまま頭を撫でてきた。
突然のことに肩をビクつかせたなまえだったが、それは、その手に嫌悪したのではなく、本当にただ驚いたから。
赤ちゃんもそのことには気付いているようで、一定のリズムで小さな手を動かし続けた。
その手のあたたかさは、心を落ち着かせるには、充分で。
「…落ち着いたみてーだな」
『はい…』
なまえの返事を聞いた赤ちゃんは、満足そうにニッと笑うと、そのまま話し始めた……
「オレの名はr「敵はここかっ!?」
嵐がやってきたもようです
雲行きが怪しいような気がするのは、私だけですか?
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