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 翌朝、僕たちはおいしそうなにおいにつられて目を覚ます。
 こんなにぐっすり眠り、すっきり目覚めたのは久しぶりだ。それに、朝起きてご飯のにおいやその準備の音が聞こえるなんて、母親が生きていた頃以来だった。
 だから、目覚めて一瞬、母親がいた頃に戻った気がして、胸が苦しくなる。

 弟も目を覚ましたので、2人でリビングに行くと、赤崎さんが昨日と同じように食事の準備をしていた。
「おはようございます」
「おはよ……ございます」
 弟は大きなあくびをしながら挨拶をする。赤崎さんは台所でにこっと笑った。
「おはよう、顔と手を洗ったら朝ご飯だよ」
「はーい」
「わーい」
 僕たちはとたとたと走って洗面所に行き、顔と手を洗ったらまたリビングに走った。
 朝ご飯は、甘い味付けのフレンチトーストと玉子の乗ったしょっぱい味付けのフレンチトースト、サラダ、デザートのフルーツヨーグルト、グラスには冷えたオレンジジュース。
 何もかもがおいしかった。

 赤崎さんが僕の父親だったらよかったのに。

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