24th





今回の罰ゲームは、比較的楽なものだった。
……あくまで比較的、だけど。


「不二君って、いつもカメラ持ってきてるの?」


「うん、まあね。いつどんな時にカメラに収めたくなるような情景に出会うか分からないからね」


「ふうん」


手に持っている不二君の一眼レフをまじまじと眺めながら、私は不二君と一緒に隣の隣のクラス……即ち3年4組へ向かった。


「タカさん、いる?」


4組内に声を掛ける不二君だが、手にはある野菜が握られている。
勿論、罰ゲームに使うためのものだ。


「不二?何か用…………あ、」


やってきた河村君は、私の姿と罰ゲーム中の札を確認するや否や微妙な顔でハハ……と笑った。


「やあ山川さん……罰ゲームかい?」


「うん、ごめん……」


「いや、いいんだよ、俺は別に気にしないし……ええと、不二も一緒ってことは、俺と不二がターゲット?」


優しい河村君の問いに肯定すると、次に彼は不二君の手元に目をやり、首を傾げた。


「不二……それは?」


「茄子だけど」


「うん…………いや、それは分かるんだけど」


私も河村君の気持ちが理解出来る。
罰ゲームが決定した時不二君がどこからか持ってきたんだけど、意味不明だったもんね。何故に茄子?しかも生。

けれど不二君は、その質問に対する十分な回答をしてはくれず。
ただにっこりと笑って言った。


「罰ゲーム用、だよ」



………………



さて、ところ変わって写真室。
主に写真部の活動で使われるここは不二君ご用達でもあるらしいので、出入りはカンタンだった。


「さて、こんな感じでいいかな」


壁の前に不二君と河村君が並んでいる。2人の手には茄子。


「落ち着いてやれば大丈夫だよ。モードは全自動にしてあるから、あとは露出に合わせてしぼりを調整するだけだから」


「すみません、よく分かりません」


不二君に指導を仰ぎながら、初の一眼レフに挑戦する私。
ていうか別に一眼レフじゃなくても、携帯の写メで良くないですか……と思ったけれども、楽しそうに一眼レフレクチャーしている不二君にそんなこと言えない。ていうかそれ差し引いても言えない。

その間河村君は、手持ち無沙汰に茄子を弄っていた。


「そうそう、そんな感じでね。肩に力が入ってるね、もう少しリラックス。タカさん、撮るよ」


「あ、うん」


向かって右に河村君、左に不二君。それぞれ左右対称の手に茄子を構えたのを確認し、私は少し深めの呼吸をしてから、ゆっくりシャッターを切った。


パシャリ。



………………



「あっはっはっはっ!はっは、はっはっはっはっはっはっは、はっはっはっ、はあ、はあ、はあ、ははっ……はっ……ははっ」


無事罰ゲームを終えた私たちは3−6の教室に戻り、出来上がった写真を菊丸君に見せた。
……ら、こんなに爆笑されたんだけど。
菊丸君……あのあんまり爆笑してるとね、不二君の顔からちょっぴり笑みが失われつつあるからね、自重して欲しいんだけどね。


「やっばあいコレ、かなりウケる〜……っふ、くくっ」


「そんなに面白い?罰ゲームの指示通りに、ボクとタカさんで茄子を持って写真を撮っただけなんだけど」


「ていうか誰が考えたの、コレ……」


「俺じゃないよん」


「ボクでもないよ」


じゃあ、私の友達の誰かかな。全く……妙な罰ゲームを作りおって!
不二君は机の上に置いてあった『不二と河村で一富士、二タカ、三茄子の写真を撮る』と書かれた罰ゲームくじをヒョイと拾い上げ、何でかクスリと微笑んだ。


「あと5回……だね」


不二君がぼそりと零したその数字は、残りの罰ゲーム。
そうだ、あと5回頑張れば私はこの罰ゲームな毎日から解放されるんだよね……!


「ホンット山川ちゃんって一勝もしてないよねえ」


「ここまで沢山やってきたのにね。ある意味才能だよね」


「はは……」


やだよそんな才能……。
そんなことを思いつつ、私は今までの罰ゲームとこれからの数回に想いを馳せ、ちょっとだけ感慨深い気持ちになった


「いや〜、それにしても不二とタカさんと茄子……ぷっくくっ」


「英二、いつまで笑ってるの?」


笑顔で菊丸君のほっぺをつねる不二君が微妙に怖かったので、不二君を笑う行為は今後慎もうと私はコッソリ誓った。



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