当然ながら……というべきだろうか。
通りすがる人の殆どに、私の胸に貼りつけてあるこの名札をジロジロ見られまくってるんだけど……いや、それはいいや、もう。
問題は、これからしなければならない罰ゲームの方である。
「あの……てっ……ててて手塚君をお呼びいただけますか……!」
3年1組教室前にて、緊張のあまりめちゃくちゃどもりまくりながら、近くにいた1組の人に声をかけた(勿論、変な顔で私の胸の名札を見られた)。
室内を覗いてみると、ターゲットの彼は読書中だった。
スミマセン、読書邪魔してスミマセン……。
なんだってこのチキン歴15年弱の私が、スポーツマンで頭も良くて女の子にモテまくりな手塚君に、こ……告白なんてしなきゃあならないんだ……。
呼びに行ってくれた女の子がパタパタと彼の元へ小走りし彼に話しかけている。
彼は顔を上げ、こちらに視線を寄越した。
あー……来る、ヤバい、こっち来る……あああぁ……。
とうとう、目の前に手塚君が来てしまった。
「……何か?」
眉間にシワを寄せている手塚君が見下ろしているのは、私ではなく(以下略)だ。
品行方正、眉目秀麗な彼にまでそんな顔で見つめられ、いたたまれないことこの上ないけど……とにかく、さっさと用件を言わなきゃ!
「え……と、あー、んん、その……」
「………………」
手塚君と周囲の視線からの無言のプレッシャーに、変に脂汗を流していた。
今更だけど、私って口下手なのかもしれない。
「あの、す……」
「………………」
彼が眉を寄せているのは、私がなかなか言い出さないからではなくこのネームプレートのせいだと思いたい。
先一年分くらいの勇気を振り絞って、私は大きく息を吸い込んで声を張り上げた。
「好きですっ、付き合ってください……!!」
ピタリ。
昼休みの喧騒が、一瞬止まって……またざわめきだした。
「!?…………」
手塚君もまた、一瞬驚いた後再び眉間にシワを作った。
わあ、私ってばこんなに沢山の人たちに見られまくってるう……なんて現実逃避してる場合ではない。
が、してしまいたい衝動に駆られるのは仕方ないことだと思うね。
「…………すまないが、まずクラスと名前を聞いてもいいか?」
すごい基本的な質問をする手塚君。そういえば、いきなり告っといて何の自己紹介もしてなかった(名前は名札に書いてあるけどね)。
「あ、ハイ、3年6組の山川紅葉……です」
「6組……そうか、アイツら……」
正直に答えると手塚君は、眉間のシワを深くして溜め息をついた。
アイツら?
「……?」
「いや……すまない、こっちの話だ。それより……」
ゴホン、と咳払いをひとつしてから、難問を解くような顔で彼は言った。
「あー、なんだ……そのようなことは、罰ゲームなどではなく……そう軽々しく言っていい台詞ではないと、俺は認識している」
「あ、ハイ、スミマセン……」
もっともなことを言い、更に続ける手塚君。
「だから……あー……………………………………すまない」
「あ、ハイ……」
罰ゲームだと分かっている筈なのに、なんて誠実な断り方をする人なんだ。女子に人気がある訳だ。
ていうか寧ろこっちがスミマセン、とか思っていると。
「不二や菊丸にも、冗談は止めろと伝えておいてくれ」
「ハイ…………ん、え?不二君と菊丸君?」
ノリで思わず返事をしてしまったが……えっと、不二君と菊丸君?
……が、何だって?
私の反応に軽くキョトンと珍しい顔をする手塚君は、こう尋ねてきた。
「……アイツらの仕業ではないのか?」
「……えっ?」
「いや……罰ゲームは……」
「え、え、いや……違いますけど……」
「………………」
……えーと、手塚君は、何やら思い違いをしていたらしい。
この後手塚君は、間違いを詫びてからもう一度告白を断った。
一回でいいのに。
ていうか、あの2人は手塚君にどう思われているんだろう……ちょっぴり気になった。
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