「よォ、クロコダイル。フッフッフ…。遊びに来てやったぜ」
「失せろ」
何しに来たのかはわからないがドフラミンゴの野郎がきやがった。相変わらず気持ちの悪い笑い方しやがる。正直言って不愉快だ。とそこで奴の手に小さな袋がぶら下がっていることに気付いた。そしてそんなおれの視線に目ざとく気付くフラミンゴ野郎…。
「これはおれからあのお嬢ちゃんに差し入れだよ」
「あいつは食い物じゃねェと見向きもしねェぞ」
「そこはぬかりねェよ」
「うぜェな」
おれはしぶしぶドフラミンゴの手から荷物を受け取り、ソファの脇、床の上に置いた。もちろんそれもおれから一番離れた場所にだ。
「まぁそんなに妬くな。嫉妬深い男は嫌われるぜ?フフフ…」
「消えろ。今すぐにだ」
そんなこと言ったって簡単に帰るようなやつだとは思ってはいないが、みさきが風呂に入っていてここにいない今がチャンスなのだ。空気読め。
「あれー?ドフラミンゴさん?いらっしゃーい」
どうやってこの男をつまみだすか考えていた時、よりにもよってこんな時にみさきが風呂場のドアから出てきた。おい、お前も空気読め。というか、その格好はなんなんだ。いや、おれからすれば大したことではない。首からフェイスタオルにYシャツ1枚着ただけのみさき。ああそうだ。いつも通りだ。もう一度いうがいつも通りだ。だがいつも通りじゃないことだってある。
「なんだ、サービスか?気前がいいな」
「やだードフラミンゴさんってばー」
くそ、ふざけんな。サービスなわけあるか。目ェつぶすぞ。枯らされたいのか?あ?
イライラする。この湧き上がってくるどす黒い感情が何かは言われずともわかっているが、それだけではない。目の前にクソミンゴがいるというのに着替えてくるということもせずおれの隣に座り込んだみさきの無防備さにも腹が立つのだ。
「おい、着替えて来い」
「えー、いいじゃん。いつもこんなんでしょ?」
「いつもとは状況が違うだろうが」
「別にドフラミンゴさんが来てるだけじゃん」
「だから…!」
「フフフ…。ったく、そんなに心配すんなよ鰐野郎。おれが手ェ出すわけねェだろ?」
「この世にてめェの言葉ほど信用できねェもんはねェ」
なにが手ェ出すわけねェだろ、だ!おれは何も言ってねェだろうが。つまりお前はコイツに手を出す気充分ってことじゃねェか。殺すぞ。
「おい、そろそろ帰れ」
「そうだ、お嬢ちゃんに差し入れを持ってきた」
「話を聞け」
「え!なんだろー!」
「お前も話にのるな!」
キャッキャとはしゃぐみさきを諌めようとしてギョッとした。お前なんて格好をしてるんだ…!
みさきはソファの横に置かれた袋をとろうと、四つん這いに屈んでいたのだ。コイツは本当に馬鹿なのか?そうだよな、馬鹿だよな。じゃなきゃYシャツ1枚しか着てないやつがそんな格好をするはずがない。
「このバカ野郎!」
「わっ!な、なに?」
突然怒鳴ったおれにみさきはかなり驚いていた。その顔はまったく意味がわからないとでも言いたそうだった。そうか、それがすべてだ。この女は狙ってやっているわけじゃない。いつもの生活を見てても計算でそういうことをする女じゃないことはよくわかっている。つまりは天然なのだ。
おれは自分の着ていたコートをみさきに被せたあと、脇に抱えて寝室へ向かった。後ろから聞こえた「手みじかに済ませろよ」というクソミンゴの声も「わっわっ、落ちる!」と騒ぐみさきの声もすべて無視だ。
まずはこの女に、いろいろと教え込んでやらなけりゃならねェ。